情報公開・個人情報保護審査会答申(第38号)
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更新日:2023年8月3日
答申第38号
令和3年3月22日
中 野 区 長 様
中野区情報公開・個人情報保護審査会
会長 佐藤 信行
中野区区政情報の公開に関する条例第13条第3項の規定に基づく諮問について(答申)
下記に掲げる中野区区政情報の公開に関する条例に係る審査請求について(諮問)について、別紙のとおり答申します。
記
・令和2年9月10日付け2中総総第2191号
第1 審査会の結論
本件審査請求は、棄却すべきである。
第2 審査請求及び審査の経緯
1 区政情報公開請求
審査請求人は、中野区区政情報の公開に関する条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、令和2年5月25日付けで実施機関ある中野区長(以下適宜、「区長」又は「実施機関」という。)に対し、区政情報の公開を請求した(以下「本件公開請求」という。)。
請求情報の内容は、中野区ウェブサイト「区長の動き」2020年2月7日に区長公務として記載のある、全国シティプロモーションサミット in TOKYO(区長車使用)への区長出席に係る、収支の詳細が分かる文書の一切。例えば、パネラーとしての謝金、区長の参加費、区長の懇親会費などの領収書や伝票その他である。
2 実施機関の決定
実施機関は、本請求に対し、請求された文書については作成及び保存していないなどの理由による非公開決定をし、条例第10条第1項の規定により、令和2年6月5日付けで、請求人に対して区政情報不存在通知書を送付した。
3 審査請求
審査請求人は、令和2年6月8日、実施機関に対し、「パネラーとしての謝金の分かる文書(以下、本件文書とする)を開示」との裁決を求める審査請求を行った(以下「本件審査請求」という。)。
4 弁明書及び反論書の提出
実施機関は、令和2年7月9日付けで本件審査請求の棄却を求める弁明書を提出した。これに対し、審査請求人は、令和2年9月7日付けで反論書を提出した。
5 当審査会への諮問
区長は、令和2年9月10日付けで条例第13条第3項に基づき、本件審査請求に係る審査を諮問した。
6 意見聴取
当審査会は、中野区情報公開・個人情報保護審査会条例第9条第1項に基づき、実施機関から令和2年10月26日に意見聴取を行った。
第3 当事者の主張の要旨
1 審査請求人の主張の要旨
審査請求人は、おおむね次の点から、本件に関して不当であると主張する。
(1)区長が公用車を使用して出向した用務に関連する謝金の受領は、私用では有り得ずその金額などの情報は区政情報である。
(2)本件文書を不存在とする理由について区は「区として受領していない」とするが、受領、作成、保存等が行われていないとすれば、不適正な行政運営である。
(3)もし、真に本件文書が受領、作成、保存されていないとするならば、本請求を機に、本件文書を受領、作成、保存した上で開示すべきである。
2 処分庁の主張の要旨
処分庁は、おおむね次の点から本件審査請求の棄却を求めている。
当該用務は主催者から区長に直接依頼があり出席したものであり、謝金に関しては実施機関の職員が職務上作成し、または入手した情報で、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、文書、図画、写真、フィルム、電磁的記録その他の記録媒体により保管している区政情報は何もないのであるから、本件文書は不存在であるというほかない。
第4 審査会の判断の理由
当審査会は、審査請求人の主張等を具体的に検討した結果、次のように判断する。
1 区長の用務の公務性について
審査請求人は本件文書を受領することとなった当該用務(事業構想大学院大学・社会情報大学院大学主催・株式会社宣伝会議特別協力・東京都後援により実施された「全国シティプロモーションサミット in Tokyo」への参加)につき、公用車を利用したことを理由としてその公務性を主張し、また関連して受領した金額などの情報が区政情報である旨を主張する。
当該用務につき、公用車の利用があったことは、当該用務が地方自治体の活性化に関わるイベント中のセミナー講演者およびパネリストであったことと併せて、区長が出席することについて公務性を推認させるものと言いうる。また、当該用務中、区長自身の氏名・職名を明示して行った講演は「中野区が目指す新たなシティプロモーション」というものであり、聴衆は自治体職員・議員・市民団体関係者などであった。これらの事実に鑑みると、広い意味において当該用務は区長の公務の一環として行われたということができる。その内容は上記のように、同区の政策について、公務員や住民参加に関心のある市民への広報活動という側面が強く、区の代表者の公務としての性質を完全に払拭することはできない。
他方で、区長は特別職の地方公務員であり、地方公務員法第四条に基づき、地方公務員の職務専念義務規定の適用を受けない。そのため、当該用務のような区長の識見を披露するイベントへの出席のように、職務の性質上、純然たる公務とそれ以外の私的行為の境界が明確に分画できない業務が存在する。当該用務への出席はそのようなものであると考えられる。また、謝金を受領したことについても、講演者およびパネリストとして登壇した政治家による専門的知見の提供の対価として、事業者から私的に受領したものという理解も、区長に職務専念義務が無い点から不可能ではない。事業者から区に対して、区長の出演依頼があった事実は認定できず、区長個人に直接依頼があったとの実施機関の主張を否定すべき根拠を見いだすことができないことは、当該用務が私的行為であったことを推認されるものであると言いうる。
なお、区長がその政治家個人としての識見や、区政についての専門家個人としての知見を講演やパネルディスカッションといった形態で提供した報酬・謝礼として、個人的に受領した金銭を、仮に区に帰属させる処理を行った場合、公職選挙法第百九十九条の二によって禁止される公職にある者の選挙区内の者に対する寄付とも解され、妥当な処理とはいえない。
以上を総合すると、当該用務に係る公務性と私的行為の関係判断は、区長の裁量により決せられる事項であったと言わざるを得ず、区長の私的行為であったとする実施機関の判断について、これを直ちに違法又は不当とすべきとはいえない。
なお、このように解するならば、今回の運用において、区に謝金に係る債権があるとは認められない一方で、区長の公務との関係、特に当該収入の交付先が区ではなく、区長個人であったことについての説明責任は発生しているものと思量されるところであるが、そのことは当審査会の結論そのものを左右するものではない。
2 文書の不存在について
審査請求人は、区が本件文書を「区として受領していない」という主張に対し、受領、作成、保存等が行われていないとすれば、不適正な行政運営であると主張する。上記第4の1のとおり、区長の当該用務への出席は、公務と私的行為の境界線上にある行為ということができる。実施機関は、当該用務について区長の私的行為と解し、本件文書をそもそも作成しなかった。
また、実施機関は本件文書につき当然不存在であるとした。当区において、区長をはじめとする特別職地方公務員が外部より受けた報酬・謝礼の取り扱いについて定めた条例その他の例規は存在しない。従って、当該用務に関連する区長の金銭の授受につき、私的行為との理解に基づき、区への債権の帰属に関わる手続を取らなかったことも是認し得る。もっとも、上記第4の1で検討したとおり、本件審査請求の前提には、区長の公務と私的行為の関係をどう理解するかという課題が存在していることも確かである。当審査会も、この点につき、区長は、区長としての見解を誠実に示すことが必要であろうと思量するが、そのことは当審査会の結論そのものを左右するものではない。
第5 結論
以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 本答申に際しての附言
本件謝礼の請求権は区の債権ではなく、謝礼は区に納入されるべき金銭ではない、すなわち、公金には該当しないので、区が違法に公金の徴収を怠っていることにはならない。このため、本件文書を区が作成する義務も存在しないといえる。
しかし、区長など特別職地方公務員の職務専念義務適用除外に鑑み、これまで、区長が謝礼を個人として受け取ってきた事実があるが、昨今の社会情勢や区民感情などを考慮して、区長が区の外部から報酬や謝礼を受領する場合に関し、公務としての派遣を含む服務のあり方や報酬・謝礼の取り扱い等に関する検討を行うべきである。
また、本件請求を踏まえ、公職選挙法、政治資金規正法、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程等における規定を参考に、区長や他の特別職の報酬・謝礼の受け取りについての記録の作成や区への報告、報酬・謝礼の区への納入等も視野に入れた区全体としての統一的な取り扱い指針等の策定を検討されたい。
更に区長が公用車の使用を伴い、また区政との関係性がある当該用務によって受領した報酬・謝金について、何らかの説明を行う必要があり、現在作成し得る形で、状況の説明資料や、謝金について収集し得る情報について整理した資料の作成とそれに基づく説明が求められよう。
中野区情報公開・個人情報保護審査会
委員 岩 隈 道 洋
委員 岸 本 有 巨
委員 熊 田 裕 之
委員 小 池 知 子
委員 佐 藤 信 行(会長)
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