情報公開・個人情報保護審査会答申(第71号)

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更新日:2024年11月1日

答申第71号

令和6年4月19日

中 野 区 長 様

中野区情報公開・個人情報保護審査会 

会長 佐藤 信行 


 

中野区個人情報の保護に関する条例第33条第3項の規定に基づく諮問について(答申)


 下記に掲げる中野区区政情報の公開に関する条例に係る審査請求について(諮問)について、別紙のとおり答申します。


 ・ 令和5年2月24日付け4中総総第3835号(令和4年10月28日付け4中区税第1277号の処分)

第1 審査会の結論

 本件審査請求は、認容すべきである。ただし、実施機関において、令和4年10月25日付けで提出されている「承諾書」が本件審査請求に係る第三者の意思を正確に示していると判断するために必要な調査等を行うことを妨げるものではない。

第2 審査請求及び審査の経緯

1 自己情報開示請求
 審査請求人は、令和4年10月25日付けで、請求に係る個人情報の内容及び請求の趣旨の欄に一括して「1 請求者に係る令和4年度特別区民税・都民税額の変更を決定するに当たり取得した部内情報」「2 扶養親族等調査のために○○市から取得した○○○○(○○市○-○-○)に係る当該取得日、所得額等関係する事項が分かるもの(例:扶養控除チェックリストに基づく本人情報、扶養等設定内容、扶養人数、備考等)」と記載して、実施機関である中野区長(以下適宜、「実施機関」又は「区長」という。)に対して自己情報開示請求を行った。

2 実施機関の決定
 実施機関は、令和4年10月28日付けで「令和4年度扶養控除確認リスト」及び「TELメモ」を開示する文書とし、「令和4年度扶養控除確認リストに記載された、○○○○の世帯番号、宛名番号、扶養の内訳、個人番号」「TELメモに記載された○○○○の宛名番号、合計所得金額」「○○○○に係る【区都民税】情報照会結果確認票」を請求を認めることができない部分とする請求の一部を認める決定を行った。なお、当該通知は「自己情報不開示決定通知書」の名称の文書で行われている。

3 審査請求
 審査請求人は、令和4年11月10日付けで、上記自己情報不開示決定(実際には、一部開示決定)に対して、審査請求を行った。審査請求の趣旨は、不開示部分に係る不開示決定を取消し、これを開示することである。また、理由として「中野区個人情報の保護に関する条例第18条第1項第2号による本人の同意を書面により得た上で、同意書(承諾書)を本件開示請求書に添付し、令和4年10月25日に提出している。」「これにより、本件処分を決定した理由が消滅していることから、通知書の処分を取り消すよう求めるものである。」としている。

4 弁明書及び反論書の提出
 実施機関は、令和4年12月7日付けで「「本件審査請求を棄却する。」との裁決を求める。」とする弁明書を提出した。これに対し、審査請求人は、令和5年1月4日付けで反論書を提出した。また実施機関は、令和5年1月26日付けで再弁明書を提出し、審査請求人は同年2月20日付けで再反論書を提出している。

5 当審査会への諮問
 区長は、令和5年2月24日付けで条例第33条第3項に基づき、当審査会に対し、本件審査請求に係る諮問を行った。

第3 実施機関及び審査請求人の主張の整理

1 実施機関の主張
 実施機関は、弁明書において「自己情報の開示については、条例第26条で規定しており、同条には、第三者の個人情報が含まれている場合に、当該第三者の同意があれば開示できる旨の規定はない。請求人が根拠として主張している、条例第18条第1項の規定は、実施機関が、補管している個人情報をその収集目的の範囲を超えて外部提供を行うことができる場合の要件を規定したものであり、自己情報の開示請求の手続及び開示決定において適用することはできない。」「したがって、請求の主張には理由がない。」としている。
 また、実施機関は再弁明書において、個人情報の開示義務の例外の1つを定める条例第26条第2号について、「開示請求者以外の者(以下「第三者」という。)である特定の個人が識別され、当該第三者に不利益を及ぼすおそれがあるもの」としていることについて、「本号において規定している開示しなければならない情報から除く情報とは、開示請求者以外の者である特定の個人が識別される情報と、開示請求者以外の者である特定の個人を識別することはできないが当該開示請求者以外の者に不利益を及ぼすおそれがある情報である。本件請求対象文書には、開示請求者以外の者である本件扶養親族を識別できる情報(本件扶養親族の氏名と一緒に記載された本件扶養親族の宛名番号及び合計所得金額等の情報)が記載されているため、当該情報が当該開示請求者以外の者に不利益を及ぼすおそれがあるか否かにかかわらず、本号に規定している開示しなければならない情報から除く情報に該当」すると主張している。

2 審査請求人の主張
 審査請求人が提出した本件審査請求に係る自己情報開示請求書、審査請求書、反論書及び再反論書にそれぞれ記載されている事柄を総合すると、審査請求人は、別居の母であり個人事業を営んでいる○○○○について、それが課税上扶養親族となるか否かを検討すべき対象であるが、同人が高齢であって申告・納税等が代理人によって行われていること等から、正確な状況を知ることが困難であることから、本件情報開示を行ったものである。また、審査請求人は、実施機関が保有する○○○○に係る情報は、審査請求人からみて第三者の個人情報であることを理由として開示できないとしているが、これについては、当初は条例第18条第1項第2号「外部提供をすることについて、本人が同意しているとき。」を根拠として主張し、後には、○○○○は条例第26条第2号適用上の「第三者」ではないこと、また、本人の同意がある以上実質的な不利益は認められないことを根拠として主張している。

第4 審査会の判断

 本件における争点は、実施機関が保有する審査請求人に係る文書である「令和4年度扶養控除確認リスト」に審査請求人以外の者である審査請求人の母(以下「本件母」という。)に係る情報が記載されていること及び本件母の開示に係る同意がある場合であっても、個人情報保護条例第26条第2号に基づき不開示とすることが義務づけられるか否かである。
 そもそも、本件対象文書は、実施機関において「令和4年度扶養控除確認リスト」とその作成に係る「TELメモ」であるが、いずれも審査請求人に係る文書であることは明らかであって、審査請求人は条例第22条に基づいて、両文書の開示を請求することができる。他方で、条例第26条は、請求対象情報を開示することが原則であることを定め、かつ、一定の場合には開示してはならないことを定めている。その一定の場合の1つが、第2号であり、同号は、次のように規定する。
(2) 開示することにより、開示請求者以外の者(以下「第三者」という。)である特定の個人が識別され、当該第三者に不利益を及ぼすおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
 ア 法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報
 イ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが公益上必要と認められる情報
 ウ 当該第三者が公務員等(次のいずれかに該当する者をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職、氏名及び当該職務遂行の内容に係る部分(当該氏名を開示することにより当該公務員等の職務遂行に支障を及ぼすおそれがある場合又は当該公務員等の権利利益を保護するため当該氏名を開示しないことが必要であると認められる場合にあっては、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分)
 (ア) 国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第4項に規定する行政執行法人の役員及び職員を除く。)
 (イ) 独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。)の役員及び職員
 (ウ) 地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員
 (エ) 地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。)の役員及び職員
 ここで実施機関は、(1)本件母は、第2号にいう第三者であり、かつ、(2)第2号は第三者が識別される情報であれば、不利益を及ぼすおそれの有無に関わらず不開示とすべきとの解釈を示すことから、これらを検討する。
 まず(1)については、その当該解釈を是認することができる。本条例は、個人情報を「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」(第2条2号)と規定するが、審査請求人と本件母は独立した人格を有する個人であって、本件母は、審査請人及び実施機関以外の者である第三者であることは当然である。審査請求人は、世帯課税を根拠として税務との関係では、扶養親族は第三者ではないと主張するが、個人情報保護条例は、第三者か否かの判断基準として開示請求対象の利用目的を用いる構造を採用していないから、この主張は失当である。そこで、本件を検討するに当たっては、審査請求人の個人情報である2文書に第三者の個人情報が含まれているものとして、その取り扱いを検討することが適切である。
 そこで次に(2)については、実施機関の解釈は失当である。実施機関は、「開示請求者以外の者(以下「第三者」という。)である特定の個人が識別され、当該第三者に不利益を及ぼすおそれがあるもの」について、前段と後段を分離して、前段は「開示請求者以外の者である特定の個人が識別される情報」と、後段は「開示請求者以外の者である特定の個人を識別することはできないが当該開示請求者以外の者に不利益を及ぼすおそれがある情報」と解釈するが、このような前段後段の分離は、通常の法令文言解釈としては極めて不自然であり、いわゆる目的的解釈にもとづく特段の理由がなければ採用することができないものである。当審査会の調査によれば、実施機関がこのような解釈を採用したのは、当区の作成した条例運用に関する解釈指針を示した文書において、そのような解釈が示されていたことが理由であると考えられるが、そこにおいては、上記の目的的解釈をすべき理由が示されておらず、当審査会としては、この解釈を採用することはできない。
 以上からすると、本件母が条例第26条2号にいう「第三者」であることを前提として、本件2文書に含まれる情報を審査請求人に開示することが「当該第三者に不利益を及ぼすおそれがあるもの」といえるかを判断することになる。
 当区条例は、その判断のための例示を行っていないが、個人情報保護制度の背後にあるのは、当該情報によって特定される個人の人格権であることは自明である。そうすると、本人が開示に同意している場合においては、これを開示してはならないという理由は、原則として存在しないと考えるべきである。もとより、同条第1号が「未成年者又は成年被後見人に関する情報であって、当該未成年者又は成年被後見人の法定代理人からの開示請求がなされた場合」であっても、「開示することが当該未成年者又は成年被後見人の利益に反すると認められる」ときには、開示をしないと定めていることは、実施機関は個人情報によって特定される本人の権利保護について、一定程度いわゆる後見的立場からの役割をすべきことを認めていることを示している。そこで、第2号との関係では、たとえば、同意書(承諾書)が正確な意思を示しているかどうかが不明である場合等において、そのことを理由として、なお「不利益を及ぼすおそれがある」と判断することは許されようが、そうした疑いがない場合においては、当該同意書(承諾書)が提出された場合「不利益を及ぼすおそれ」がないとの判断をすべきである。

第5 結論

 以上により、上記第1記載のとおり判断する。

中野区情報公開・個人情報保護審査会 

委員 岩 隈 道 洋 

委員 岸 本 有 巨 

委員 小 池 知 子 

委員 神 山 静 香 

委員 佐 藤 信 行(会長)


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