情報公開・個人情報保護審査会答申(第41号)

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更新日:2023年8月3日

答申第41号 
令和3年7月21日 

中野区長 酒井 直人 様

中野区情報公開・個人情報保護審査会 
会長 佐藤 信行 

 

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第3項の規定に基づく諮問について(答申)

 下記に掲げる中野区区政情報の公開に関する条例に係る審査請求について(諮問)について、別紙のとおり答申します。

1 令和2年10月8日付け2中総総第2331号(「1号事案」という)
2 令和2年10月8日付け2中総総第2332号(「2号事案」という)

第1 審査会の結論

 本件審査請求の1号事案に含まれる2つの請求のうち第1のもの及び第2号事案に含まれる2つの請求のうち第1のものについて却下し、残余のものについてその請求の趣旨を審査し、請求を棄却する。

第2 審査請求及び審査の経緯

1 区政情報公開請求(1号事案)
 本件の審査請求人は、令和2年2月5日付けで、中野区区政情報の公開に関する条例第7条第1項(以下「条例」という)の規定に基づき、実施機関である中野区長(以下適宜、「実施機関」又は「区長」という。)に対して、次の区政情報公開請求を行った(以下「公開請求1」という。)。
「(1)下記の認可保育園の令和2年4月における2歳児クラスの新規入園許可者の人数が分かる文書」(以下「請求1-1」という。)
「(2)下記の認可保育園の令和2年4月の2歳児クラス入園許可者の第一次選考結果に関し、入園下限合計指数が分かる文書及び入園下限合計指数が同一の世帯が複数あった場合において、「保育所等利用調整基準」の「3.同一指数世帯の優先順位」のうち、1から7までの事情に差がない場合であって、入園の許可・不許可の判断が分かれた理由が「7 保育料階層が低位の世帯」又は「8 税額が低位の世帯」における差であった場合、入園を許可された世帯及び許可されなかった世帯の保育料階層又は税額が分かる文書」(以下「請求1-2」という。)

 なお、請求1-1及び請求1-2に共通する「下記の認可保育園」は、次の12園である。1キッズフォレ平和の森、2中野りとるぱんぷきんず、3沼袋保育園、4ピオニイ保育園、5あけぼの保育園、6小学館アカデミー新井薬師保育園、7沼袋西保育園、8にじいろ保育園中野野方、9なかのこども園、10グローバルキッズ沼袋園、11野方保育園、12松ヶ丘保育園。

2 実施機関の決定(1号事案)
 実施機関は、令和2年2月21日付けで、公開請求1に対し、区政情報一部公開決定を行うとともに、これを審査請求人に通知した(以下「請求1一部公開決定」という)。すなわち、請求1-1については「作成しておらず不存在」とする一方で、請求1-2については請求情報の内容を「請求書に記載されている8園について第一次選考結果の入園下限指数と入園下限数が同一であって、入所・保留決定をする際「3.同一指数世帯優先順位」についても「8.保育料階層が低位の世帯」、「9.税額が低位の世帯」における差であった場合の世帯保育料階層又は税額がわかる資料の公表」と整理した上で、「4月入園の第1次選考結果(2歳児)(入園下限税額)」【この一覧は区政情報公開請求書に基づいて利用調整会議資料から抜粋したものです。】を公開したものである。

 なお、公開された資料においては、上記12園の全てについて、入所階層・保留階層・下限指数が公表できない旨記載されており、その理由として、3、11、6、7の4園については「※3空きがなかったため」、1の園については「※1選考の差が税額の差でなかった」と記載され、残余の7園については「※2入所人数が若干名だったため公表することで個人が特定されるため」と記載されている。

 

3 審査請求(1号事案)
 審査請求人は、請求1一部公開決定を不服として、条例第13条第1項に基づき、令和2年3月3日付けで、実施機関に対して審査請求を行った。その趣旨は2点であり、第1は、請求1-1について不存在につき非公開とした決定の取消しを求めるものであり、第2は、請求1-2について公開された文書のうち7園について「※2入所人数が若干名だったため公表することで個人が特定されるため」との理由により、入所階層、保留階層、下限指数の分かる文書を公開しなかった決定の取消しを求めるというものである。

4 区政情報公開請求(2号事案)
 審査請求人は、令和2年3月3日付けで、1号事案と同様に区長に対して、次の区政情報公開請求を行った(以下「公開請求2」という。)。
「(1)令和2年4月の2歳児クラス入園許可者第一次選考結果に関し、「キッズフォレ平和の森」の入園下限合計指数が分かる文書(令和2年2月5日付の情報公開請求において請求しましたが、請求情報と認識されなかったようですので再度請求します。)」(以下「請求2-1」という。)
「(2)下記の認可保育園の令和2年4月における3歳児クラスの新規入園許可者の人数が分かる文書」(以下「請求2-2」という。)
「(3)下記の認可保育園の令和2年4月の歳児クラス入園許可者の第一次選考結果に関し、入園下限合計指数が分かる文書」(以下「請求2-3」という。)
「(4)下記の認可保育園の令和2年4月の3歳児クラス入園許可者の第一次選考結果に関し、入園下限合計指数が同一の世帯が複数あった場合において、「保育所等利用調整基準」の「3.同一指数世帯の優先順位」のうち、1から7までの事情に差がない場合であって、入園の許可・不許可の判断が分かれた理由が「7 保育料階層が低位の世帯」又は「8 税額が低位の世帯」における差であった場合、入園を許可された世帯及び許可されなかった世帯の保育料階層又は税額が分かる文書」(以下「請求2-4」という。)

 なお、請求2-2から2-4における「下記の認可保育園」は、公開請求1における12園と同一である。

5 実施機関の決定(2号事案)
 実施機関は、令和2年3月19日付けで、公開請求2に対し、区政情報一部公開決定を行うとともに、これを審査請求人に通知した(以下「請求2一部公開決定」という)。すなわち、請求2-2については「作成しておらず不存在」とする一方で、請求2-1については当該合計下限指数を公開し、また、請求2-3については請求情報の内容を「令和2年4月の3歳児クラス8園について入園下限数」、請求2-4については「令和2年4月の3歳児クラス8園について入園下限数が同一であって、入所・保留決定をする際「3.同一指数世帯優先順位」についても「8.保育料階層が低位の世帯」、「9.税額が低位の世帯」における差であった場合の世帯保育料階層」と整理した上で、この両者に係る文書として「2020年4月入園の第1次選考結果(3歳児)(入園下限税額)」【この一覧は区政情報公開請求書に基づいて利用調整会議資料から抜粋したものです。】を公開したものである。

 なお、「2020年4月入園の第1次選考結果(3歳児)(入園下限税額)」においては、上記12園の全てについて、入所階層・保留階層・下限指数の欄が設けられている(合計36欄)が、そのうち5欄には具体的な値が記入され、4欄については保留者がいなかった(全員入園許可)ことを意味する斜線が引かれており、これらの記載により3園については、公開請求を求められた情報が公開されているが、それ以外の9園については、公表できない旨記載されている。その理由として、3、11、6、7の4園については「※2空きがなかったため」、2、4、5、8、10の5園については「※1入所人数が若干名だったため公表することで個人が特定されるため」と記載されている。

6 審査請求(2号事案)
 審査請求人は、請求2一部公開決定を不服として、条例第13条第1項に基づき、令和2年6月15日付けで、実施機関に対して審査請求を行った。その趣旨は2点であり、第1は、請求2-2について不存在につき非公開とした決定の取消しを求めるものであり、第2は、請求2-3及び同2-4について公開された文書のうち5園について「※1入所人数が若干名だったため公表することで個人が特定されるため」との理由により、入所階層、保留階層、下限指数の分かる文書を公開しなかった決定の取消しを求めるというものである。

 なお、審査請求人は、請求2-1について決定の取り消しを求めていない。

7 弁明書の提出(1号事案)
 実施機関は、令和2年5月14日付けで本件審査請求の棄却を求める弁明書を提出した。そこに示された理由は、上記2の実施機関の決定において示されたものと実質的に同一のものである。

8 反論書の提出(1号事案)
 審査請求人は、令和2年6月15日付けで、反論書を提出した。ここにおいては、請求1-1に関して、公開された資料において「区立沼袋保育園ほか4園について「空きがなかった」と記載され、私立中野りとるぱんぷきんずほか7園については「入所人数が若干名だった」と記載されていることから、処分庁が各認可保育園の新規入園許可者の人数を把握していることは明らかである」とされ、請求1-2に関して、「入園下限指数及び入園下限保育料階層又は入園下限税額」「自体は氏名や顔写真のように特定の個人を識別できる情報ではない。
 また、中野区は各認可保育園の2歳児クラスの新規入所者の氏名を公表しているわけではなく」「ましてや新規入所者の人数すら公表していない現状にあっては、審査請求人が開示を求めている入園下限指数及び入園下限保育料階層又は入園下限税額は他の公表情報等と組み合わせて容易に個人を識別できる情報にも当たらない」旨を主張している。

9 原処分の取消し
 実施機関は、令和2年7月22日付け「区政情報一部公開決定の取消しについて」(以下「請求1取消決定」という)によって、公開請求1に係る原処分(請求1一部公開決定)を取り消した。その理由は、請求1-1について「情報公開請求者から提出された令和2年2月5日付け区政情報公開請求書に記載されている請求情報の内容(1)「令和2年4月における2歳児クラスの新規入園許可者の人数が分かる文書」に該当する区政情報については、」「(取消し)対象文書の「公開することができない理由」欄において「作成しておらず不存在」としていたが、一部を被覆した上で公開することができる「文書が存在することが判明したため。」とされている。同日付けの別文書「区政情報一部公開決定通知書」においては「請求書に記載されている令和2年4月における2歳児クラスの新規入園許可者の人数が分かる文書の個人情報部分」が公開することのできない部分とされ、12園についての「審査名簿」が一部被覆の上公開されている。
 また、実施機関は、令和2年7月22日付け「区政情報一部公開決定の取消しについて」によって、公開請求2に係る原処分(請求2一部公開決定)を取り消した。その理由は、上記請求1-1と同趣旨で対象年齢のみが異なる請求2-2について、同様に一部を被覆した上で公開することができる文書が存在することが判明したためとされている。同日付けの別文書「区政情報一部公開決定通知書」においては「請求書に記載されている令和2年4月における3歳児クラスの新規入園許可者の人数が分かる文書の個人情報部分」が公開することのできない部分とされ、12園についての「審査名簿」が一部被覆の上公開されている。

10 再弁明書の提出(1号事案)
 実施機関は、令和2年8月17日付けで公開請求1に係る審査請求の却下を求める再弁明書を提出した。そこに示された理由は、上記9の経緯を説明し、「よって、本件処分は既に取り消されており、遡及的にその効力は失われていることから、審査請求人が本件処分の取消しを求める不服申立ての利益は失われたものというべきであり、行政不服審査法第45条第1項の規定に基づき、本件審査請求は却下されるべきものである」とするものである。

11 弁明書の提出(2号事案)
 実施機関は、令和2年8月26日付けで公開請求2に係る審査請求の却下を求める弁明書を提出した。そこに示された理由は、上記9の経緯を説明し、「よって、本件処分は既に取り消されており、遡及的にその効力は失われていることから、審査請求人が本件処分の取消しを求める不服申立ての利益は失われたものというべきであり、行政不服審査法第45条第1項の規定に基づき、本件審査請求は却下されるべきである」とするものである。

12 再反論書(1号事案)及び反論書(2号事案)の提出
 審査請求人は、令和2年9月17日付けで、公開請求1に係る再反論書及び公開請求2に係る反論書を提出した。再反論書おいては、審査請求は、請求1-1及び請求1-2の双方に関するものであり、請求1-1について文書が存在することが判明したとの理由で、原処分を取消して当該文書を公開したとしても、請求1-2について審査請求人が求める情報が公開されていない以上、原処分の取消しを求める審査請求の権利が存在するというものである。
 また、反論書においては、上記と同一の趣旨が請求2-2と同2-3及び2-4の関係について述べられているほか、公開請求1に係る反論書で述べられたものとほぼ同一の主張がなされ、さらに、実施機関がその説明責任を十分に果たしていないとの主張がなされている。

13 当審査会への諮問
 区長は、令和2年10月8日付けで条例第13条第3項に基づき、公開請求1及び公開請求2に係る審査を諮問した。

14 意見聴取
 当審査会は、中野区情報公開・個人情報保護審査会条例第9条第1項に基づき、実施機関から令和3年3月23日に意見聴取を行った。

第3 実施機関及び審査請求人の主張の整理

 上記に述べたように、審査請求人は公開請求1及び公開請求2に係る審査請求を行っているが、両者は、実質的な争点を同じくするものである。そこで、以下第3及び第4においては、主として公開請求1について検討し、必要な範囲で公開請求2についても検討した上で、公開請求1及び公開請求2の双方について判断するものとする。

1 実施機関の主張
(1)審査請求の利益について
 実施機関は、公開請求1に対して行った一部公開決定について、これを取り消していることから、審査請求人は、審査請求の利益を欠く。

(2)個人情報保護を理由とする被覆について
 12園のうち7園については、「第一次選考結果の入園下限指数と入園下限数が同一であって、入所・保留決定をする際「3.同一指数世帯優先順位」についても「8.保育料階層が低位の世帯」、「9.税額が低位の世帯」における差であった場合の世帯保育料階層又は税額が分かる資料の公表」を行うと「入所人数が若干名だったため公表することで個人が特定されるため」、条例第8条第1項第1号に定める個人情報として公開できない。

2 審査請求人の主張
(1)審査請求の利益について
 審査請求は、請求1-1及び請求1-2の双方に関するものであり、請求1-1について文書が存在することが判明したとの理由で、原処分を取消して当該文書を公開したとしても、請求1-2について審査請求人が求める情報が公開されていない以上、原処分の取消しを求める審査請求の権利が存在する。

(2)個人情報保護を理由とする被覆について
 区政情報として公開を求めている、入園下限指数、入園下限保育料階層又は入園下限税額は、それ自体では個人情報とはいえず、また、他の公表情報等と組み合わせて容易に個人を識別できる情報にも当たらない。

第4 当審査会の判断 

1 審査請求の利益について
 令和2年2月5日付けで審査請求人は、実施機関に対して、区政情報公開請求書を提出したが、そこには請求1-1及び請求1-2の2つが含まれている。これらは、確かに相互に関連しているが、請求1-1を前提としてはじめて請求1-2が成り立つといった関係にあるものではなく、それぞれで独立したものであると認められる。公開請求1に対する請求1一部公開決定は、請求1-1について不存在を理由とする非公開、請求1-2については、一部被覆による公開を行っているが、このこと自体が、両者が実質的に別の請求であることを示している。
 これに対して、実施機関は、請求1-1に関して一部被覆の上公開可能な文書が存在していたことが明らかとなったので、請求1一部公開決定により処分全体を取り消して、新たに請求1-1に対応する文書を公開したことを根拠として、審査請求の利益の喪失を主張する。しかし、審査請求人が主張するように、本件審査請求は請求1-1及び請求1-2の双方に関するものであるから、請求1取消決定による処分取消しの効果は、請求1-1にのみ及ぶと解するのが合理的であり、請求1-2との関係では依然として、審査請求の利益があると考えるべきである。
 なお、本件取消しが実施機関による職権取消しであることから、その効力の範囲は、実施機関が自由に設定できると解することも論理的には不可能ではないが、そのように解するならば、請求1-2との関係で原処分を職権で取り消したことそのものが、禁反言原則に抵触するおそれすら認められる。
 以上のことから、当審査会は、審査請求人は請求1-2に係る原処分に関しては、引き続き審査請求の利益を有していると判断する。また、同様のことは、公開請求2についても妥当することから、審査請求人は請求2-3及び2-4に係る原処分に関しては、引き続き審査請求の利益を有していると判断する。

 なお、請求1-1及び請求2-2に係る原処分については、これが職権で取り消された後、別途区政情報が公開されていることから、審査請求人は審査請求の利益を失っているということができるから、この部分については、本件審査請求は却下されるべきものである。

2 個人情報保護を理由とする被覆について
 請求1-2で公開が求められているのは、保育園の入園許可・不許可について、「保育料階層が低位の世帯」「税額が低位の世帯」が判断基準として用いられた場合における、許可・不許可のしきい値であり、請求1一部公開決定に基づいて公開された文書では、これは、入所階層、保留階層及び下限指数として整理されている。
 これらの値については、12園の全てについて被覆されているが、そのうち7園については、個人情報保護が理由とされており、この被覆が許されるかが本件の実質的な争点である。
 そもそも条例上、個人情報とは「実施機関が保管する個人生活に関する情報で、特定の個人を識別できるものをいう」(条例第2条第3号)が、これについては、同第5条で「実施機関は、この条例の解釈及び運用にあたっては、個人情報の保護について最大限の配慮をしなければならない」と規定されており、この趣旨を受けて第8条では、「個人情報又は特定の個人を識別することはできないが、公開することで、個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」について、公開の対象外としている。
 そこで、請求1-2で公開を求められた入所階層、保留階層及び下限指数の個人情報該当性について検討すると、これらから、直ちに特定の個人を識別することはできない。しかし、この情報と、特定の保育園において、特定の時期に入園が許可された、特定の年齢の者という情報を結合した場合、当該個人に係るこれらの値が推定されることが生じうる。例えば、そのような者が1名であった場合、当該園に係る入所階層や下限指数を示す値は、当該入園を許可された子どもの保護者についてのものといえるが、この子どもについては、当該園で保育を受ける他の子どもの保護者は容易に特定しうるから、この値が公開されることにより、当該保護者の経済状態等の推定が可能となる。こうした事態は、一般人の感受に照らして知られたくないと考えられる事柄について、当該保護者の意思に反して知られることで、プライバシーを侵害するリスクを含むことから、条例第8条が定める「特定の個人を識別することはできないが、公開することで、個人の権利利益を害するおそれがあるもの」に該当するといえる。
 もっとも、こうした値であっても、特定の保育園において、特定の時期に入園が許可された、特定の年齢の者が十分に多い場合には、上記のような推定を導くとはいえないから、公開すべき区政情報ということができる。
 そこで問題となるのは、その境界である。形式論理的にいえば、入園を許可された者が2名である場合、入所階層や下限数値を公開すると、この2名の保護者は、それが自らに係る値であるか否かを判断することによって、他者に係るそれらの値を知ることができる一方で、入園を許可された者が3名以上である場合には、当該値が2名以上の保護者のいずれかに係ることが推定されるに留まるから、これを基準として公開すべき区政情報か否かを判断すべきとも考えられる。しかしながら、同一保育園に子の保育を求める保護者という関係にある者にとっては、他の要素を加えた推定も可能であり、上記の形式的基準を機械的に適用することが条例解釈上の義務であるとはいえない。そこで、実施機関においては、この境界の設定について、区政情報の公開の重要性とプライバシーリスクの双方を勘案した判断を行うべきなのであって、当審査会は、その判断が合理的な裁量判断の範囲を逸脱している場合に、当該境界設定に基づく処分が違法又は不当であると判断することになる。
 ここで、中野区の実務についてみるならば、そのウェブサイト上に「2020年4月入園の第1次選考結果(入園下限合計指数)」を公表していることが明らかである。そこにおいては、全83の保育園等について、入所階層及び保留階層は開示していないものの、年齢別に入園下限合計指数が示されている。ただし、いくつかの欄については「若干名」と表示され、そこには「入園者が少数のため、個人情報に配慮し非公開といたしました。他園の同年齢の指数を参考にしてください。」との注記が付されている。
 当審査会において行った実施機関からの意見聴取等からは、この「若干名」との表記は、入園者数が3名以下の場合に行っており、公開請求1及び公開請求2について各値の公開又は被覆を判断する際においても、これと同様の基準を用いたことが認められる。この基準は、上述の形式論理から導かれる数値である2名とは異なるものの、上述のようにこの数値を機械的に適用することは条例上の義務とはいえず、それに1名を加えた3名を下限指数、入所下層及び保留階層に係る値非公表の基準とすることが、違法又は不当な判断であるとすべき根拠は認められない。

第5 結論

 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 付言

 本答申で述べたように、公開請求1及び公開請求2には、複数の関連はしているが独立した区政情報公開請求が含まれており、実施機関は、その一部について原処分を取り消すべき事由が見つかったことを理由として、原処分を職権で取り消し、そのことを基に、当該原処分を取り消すべき理由とは無関係な請求に係る審査請求についても審査請求の利益が失われたと主張している。しかし、このような主張を許すならば、審査請求がなされたあらゆる行政処分について、その主要でない部分について職権取消しを行うことで、審査請求を実質的に排除し、市民の権利利益を迅速に回復することを目的の1つとする行政不服審査制度に重大な危険を及ぼすことになる。
 一葉の区政情報公開請求に複数の請求が記載されることは、しばしば見られることであるから、実施機関は、請求相互の関係を実質的な観点から精査し、職権取消しを行う場合においては、その範囲について十分に検討を行い、審査請求する者の権利利益を害することのないように留意されたい。

 中野区情報公開・個人情報保護審査会
 委員 岩 隈 道 洋
 委員 岸 本 有 巨
 委員 熊 田 裕 之
 委員 小 池 知 子
 委員 佐 藤 信 行(会長)

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