情報公開・個人情報保護審査会答申(第10号)

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更新日:2023年8月3日

答申第10号

平成30年10月29日

中野区長 様

中野区情報公開・個人情報保護審査会
会 長 佐藤 信行

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第3項の規定に基づく諮問について(答申)

平成30年2月28日付け、29中経行第1214号による下記の諮問について、別紙のとおり答申します。

中野区区政情報の公開に関する条例に係る審査請求について(諮問)

(以下、別紙の内容)

第1 審査会の結論

中野区長(以下、適宜「実施機関」又は「区長」という。)が、学校法人(以下「学校法人」という。)との交渉記録及び担当職員のメールに関する区政情報の公開請求について、中野区区政情報の公開に関する条例(以下「条例」という。)第8条第1項の規定により、全部非公開とした決定は不当であるため、公務員、法人の代表者及び弁護士以外の個人の氏名並びに個人及び法人の印影を除き、公開すべきである。

第2 審査請求及び審査の経緯

1 公開請求

審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成29年8月1日、実施機関に対し、条例第7条の規定に基づき、「学校法人との交渉記録の一切の文章、担当職員のメール(プロポーザル決定以後から訴訟終了まで)」の公開を請求した(以下「本件公開請求」という)。

2 区政情報公開決定通知期間延長通知

実施機関は、平成29年8月7日、本件公開請求に係る区政情報の確認及び準備作業に日数を要することを理由に、条例第10条第1項に規定する期間内に公開の可否を通知することができないため、同条2項の規定により決定する期間を同年10月2日まで延長する旨を請求人に通知した。

3 区政情報の公開に関する意見照会

実施機関は、平成29年9月8日、本件公開請求に係る区政情報を交渉記録一覧として特定したうえで(以下「本件請求情報」という。)、本件請求情報に請求人以外の第三者に関する情報が記録されていたので、条例第12条の2第1項に基づき、学校法人及び独立行政法人(以下「独立行政法人」という。)に対して、本件請求情報を通知し、意見書の提出を求めた。

4 意見書の提出

(1)学校法人

学校法人は、平成29年9月9日、本件請求情報の公開は、学校法人に事業上の不利益を与えることが明らかであるから、条例第8条第1項第2号の非公開情報に当たるとして、本件請求情報すべての公開に反対する意見書(以下「意見書1」という。)を提出した。

(2)独立行政法人

独立行政法人は、平成29年9月15日、「独立行政法人等の保有する情報公開に関する法律」第5条第1項第1号に基づき、本件請求情報のうち独立行政法人の職員名は個人情報に当たるとして職員名の非公開を求める意見書を提出した。

5 非公開決定

実施機関は、平成29年9月29日、請求人に対して、条例第8条第1項の規程により、本件請求情報を公開しない決定(以下「本件非公開決定」という。)をした旨を通知した。

6 審査請求

請求人は、平成29年12月28日、実施機関に対し、本件非公開決定処分の取消しを求める審査請求を行った(以下「本件審査請求」という。)。

7 弁明書の提出

実施機関は、平成30年1月26日、本件審査請求の棄却を求める弁明書を提出した。

8 反論書の提出

請求人は、平成30年2月23日、弁明書に対する反論書を提出した。

9 諮問

区長は、平成30年2月28日、条例第13条第2項に基づき、本件審査請求につき当審査会に審査を諮問した。

10 参加人

区長は、学校法人が本件審査請求について参加人となる旨の申し出を行政不服審査法第13条第1項の規定により許可し、当審査会にその旨を通知した(平成30年3月14日)。参加人は、平成30年6月4日、当審査会に意見書(以下「意見書2」という。)を提出した。

11 意見の陳述

当審査会は、中野区情報公開・個人情報保護審査会条例第9条第1項に基づき、実施機関から平成30年4月16日に意見聴取を行い、また、請求人は同年5月29日に、参加人は同年7月17日にそれぞれ当審査会において口頭意見陳述を行った。

12 本件請求情報に関する中野区と参加人との関係

本件請求情報の公開について判断するためには、中野区と参加人との関係を把握しておくことが必要であるため、以下に本件請求情報に関する限りで両者の関係を簡潔に記すことにする。
中野区は、旧区立桃丘小学校跡地に係る事業についてプロポ-ザル方式で学校法人を選考し、両者の間で、平成23年6月に基本協定、同年9月に同跡地に係る土地及び建物の賃貸借契約が締結された。中野区は、当初賃貸借期間5年満了後も賃貸借の継続を望む学校法人に対して、同跡地を含む街づくりのため更新を拒絶し、平成28年11月に期間満了後も土地及び建物を占有している学校法人を被告として土地建物等明渡請求訴訟を提起したが、平成29年4月に両者は和解した。

第3 当事者及び参加人の主張の整理

1 実施機関の主張

実施機関が、本件請求情報を非公開とした理由は、区政情報非公開決定通知書、弁明書及び意見聴取によれば、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第2号の定める非公開事由の存在

本件請求情報を公開することにより、法人である学校法人に事業上明らかに不利益を与えるため、条例第8条第1項第2号の定める非公開事由に当たると主張する。実施機関は、その主張を根拠づける理由として、1本件請求情報は、行政庁内部での意思形成及び交渉による合意の成立や紛争の解決を目的としたものであり、外部に公表されることは予定していないものであること、2学校法人との訴訟は、和解によって終了しているため事実が訴訟において明らかになっていないので、本件請求情報が公開されるとそれが真実であると認識され、学校法人の社会的信用の失墜や風評被害に発展し、著しい不利益を与え、名誉棄損に当たるおそれがあることを挙げている。

(2)条例第8条第1項第3号イの定める非公開事由の存在

本件請求情報を公開することにより、区政の公正又は適正な執行を妨げるおそれがあるため、条例第8条第1項第3号イの定める非公開事由に当たると主張する。実施機関は、その主張を根拠づける理由として、上記(1)1・2のほか、3本件請求情報のような情報を公開すれば、今後、区が他法人、団体と同種の交渉を行う場合に、自由な発言、意見交換が妨げられるなど相手方を委縮させる事態を招来しかねず、ひいては、交渉による最終的な合意の成立や紛争の解決が困難になるなど区が行う交渉に著しい支障を来すおそれがあり、区政の公正又は適正な執行を妨げるからであるとの理由を挙げている。

2 参加人の主張

参加人は、意見書1・2及び口頭意見陳述によれば、本件請求情報の公開により、参加人が事業上の不利益を被ることが明らかであるから、条例第8条第1項第2号の定める非公開事由に当たるとして、本件請求情報の公開に反対する旨の主張をしている。
参加人は、事業上の不利益として、1不当利用による風評被害のおそれ、2生徒等関係者への不利益のおそれ、及び3通常業務への支障のおそれを挙げている。
1の根拠としているのは、本件請求情報の性質及び目的である。すなわち、本件請求情報は、参加人と中野区との建物賃貸借契約の任意交渉に関するものであり、交渉の目的だけに作成され、当事者間のみで使用することが予定され、外部開示されるべきでない性質のものであり、また、本件請求情報のうち訴訟に関するものは、訴訟追行の目的で作成されたもので、訴訟外で利用することが予定されていない性質のものであるから、本件請求情報が公開されれば、その性質を無視して、歪曲や拡大解釈がなされ、参加人への誹謗中傷などの攻撃の手段として不当に利用され、風評被害が発生するおそれがあるからであると主張する。
2の根拠としているのは、本件請求情報の公開により、生徒や保護者などの関係者に多大な不安を与えかねないことである。
3の根拠としているのは、過去に現に不利益が生じたことである。すなわち、本件公開請求の前に、中野区のホームページに旧桃丘小学校跡地の利用をめぐる学校法人との事件が掲載された際に、マスコミ等からの問い合わせや取材への対応のため、また生徒等関係者の不安を軽減する対応のため、通常業務に著しい支障が生じたことがあったので、今回本件請求情報が公開されれば再び同様の支障が生じることが予想できるからである。

3 審査請求人の主張

審査請求人が、実施機関に対し本件非公開決定の取消しを求めた理由は、審査請求書、反論書及び口頭意見陳述によれば、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第2号の非公開事由の不存在

審査請求人は、実施機関の主張(1)1に対して、情報公開の目的を定めた条例第1条により、公務で作成された文書は基本的に区民と共有されるべき内容のものであるから、「外部に公表することを予定していない」ことは非公開の理由とはならず、また、2に対して、そもそも裁判所における和解は、原告・被告いずれの主張が真実であるかを判断するものではないので、真実が明らかなっていないことは非公開の理由とはならず、したがって、本件請求情報の公開により、学校法人に明らかに事業上の不利益を与えることはないと主張する。

(2)条例第8条第1項第3号イの非公開事由の不存在

中野区と学校法人との訴訟はすでに終了しているのであるから、本件請求情報を公開しても訴訟に影響を与えることはない。また、本件請求情報を公開することにより、「区民と区との情報の共有を図ることにより」(条例第1条)、区と学校法人との交渉、訴訟及び和解が適正に行われたのかを区民が検証することができるようにすることが必要であり、それにより今後区政の公正又は適正な執行が著しく妨げられるおそれが生ずることはないと主張する。

(3)審査請求人は、学校法人の職員名及び学園の印影を非公開とする部分については争わないと主張している。

第4 審査会の判断

1 区政情報公開の原則

中野区の情報公開制度は、区民の知る権利を保障し、区民と区との情報の共有を図ることが住民自治と開かれた区政運営の推進にとって不可欠の要件であるとの考えを基礎とするものであるから、実施機関は公開請求があったときは、原則として請求情報を公開しなければならない(条例第1条・第8条柱書き)。

2 例外として非公開

したがって、実施機関が請求情報を例外として非公開とするためには、条例第8条第1項第1号ないし第5号に定められた事由を充足する場合に限られる。
実施機関及び参加人は、本件請求情報が同条第1項第2号及び第3号イに定められた非公開事由に該当することを理由に公開に反対しているので、以下においてそれぞれの非公開事由を充足しているかどうかについて検討する。

3 条例第8条第1項第2号に定められた非公開事由について

(1)条例第8条第1項第2号に定められた非公開事由

本件請求情報は、学校法人に関する情報、すなわち法人に関する情報(以下「法人情報」という。)である。
法人情報は、条例第8条第1項第2号により、「当該情報を公開することにより、事業上明らかに不利益を与えると認められるもの」に限って非公開とすることができる。
「事業上明らかに不利益を与えると認められるもの」に該当するためには、法人の事業活動に何らかの不利益を与える可能性があるというだけでは足りず、法人の権利や競争上の地位、正当な利益が、明らかに侵害されると認められる高度の蓋然性が必要であり、当該情報の内容や性質をはじめとして、法人の事業内容、法人と行政との関係、法人の事業活動に対する法律上の保護の必要性等を考慮して総合的に判断される。

(2)請求情報の作成目的の考慮

実施機関及び参加人は、本件請求情報は行政庁内部での意思形成及び交渉による合意の成立や紛争の解決又は訴訟追行を目的としたものであり、外部に公表されることは予定していないものであることを非公開の理由として挙げているが、意思形成、交渉及び争訟に関する情報が公開の対象になること自体は、条例第8条第1項第3号の規定から明らかであるから、外部に公表されることを予定していない情報であることのみでは非公開事由にならない。

(3)請求情報の真実性の考慮

実施機関は学校法人との訴訟が和解で終了しているため本件請求情報に含まれる事実が真実であることが明らかになっていないことを非公開の理由として挙げているが、情報公開制度において請求情報が真実であるかどうか自体は、公開するかどうかを決定する基準ではなく、次に検討する事業上明らかに不利益を与える高度の蓋然性があるかどうかの判断に帰結する。

(4)事業上明らかな不利益発生の高度な蓋然性

実施機関及び参加人が挙げている不利益のうち、生徒等の不安は主観的なものにすぎず事業上の不利益には当たらないが、社会的信用の失墜、風評被害及び名誉棄損は事業上の不利益に当たる。しかしながら、実施機関及び参加人の主張は、いずれもそれらの不利益が生じるおそれがあるという次元に止まっており、具体的に社会的信用がどの程度失墜し、どのような風評被害が発生し、どうして名誉棄損になるのかについて高度の蓋然性を示して事業上明らかな不利益が生ずることを説明していない。確かに過去の現に生じた不利益は挙げられているが、本件請求情報の公開により新たに生じる明らかな不利益が高度の蓋然性を持って具体的に示されているとはいえない。
当審査会は、参加人の口頭意見陳述の機会に、現に生じている、または将来生じるであろう不利益を資料に基づいて数字等で具体的に示してほしいと要請したが、後日学校法人から資料は提出しない旨の回答があった。
以上により、条例第8条第1項第2号に規定されている非公開事由は、本件請求情報には存在しないと判断する。

4 条例第8条第1項第3号イに定められた非公開事由について

(1)条例第8条第1項第3号イに定められた非公開事由

条例第8条第1項第3号イにより、実施機関の「監査、検査、取締り、租税の賦課又は徴収、契約、交渉、協議、争訟、調査研究、人事管理その他の事務に係る情報」であって、「事務の性質上、当該情報を公開することにより、区政の公正又は適正な執行を著しく妨げるおそれのあるもの」は、非公開情報とされている。

(2)本件請求情報の事務該当性

本件請求情報は、実施機関と学校法人との間の「契約」「交渉」「協議」に係る情報であり、また、契約の終了をめぐる訴訟及び和解に関するものであるから、「争訟」に係る情報でもある(以下「本件実施機関事務情報」という。)。
そこで本件実施機関事務情報が、事務の性質上、当該情報を公開することにより、区政の公正又は適正な執行を著しく妨げるおそれがあるかどうかについて、以下検討する。

(3)地方自治法の規定の考慮

地方自治体が当事者として訴えを提起し、又は和解をする場合、地方自治法第96条第1項第12号により、議会の議決が必要とされている。訴えの提起又は和解の結果によっては自治体が財政負担を伴うこともあり、重大な影響が及ぶ可能性があるため、地方自治体の執行機関は議会の監視のもとで訴えを提起し、又は和解することができるとされているのである。
地方自治法第96条第1項第12号は議会の権限を定めたものではあるが、その立法趣旨及び地方自治の本旨である住民自治からすれば、情報公開制度においても、住民が訴訟及び和解の内容のみならず訴訟及び和解に至った経緯を知る機会が可能な限り認められるべきである。とりわけ、本件和解の内容として、中野区は学校法人に対して解決金として300万円を支払う財政負担を負うことになったのであるから、区民がその妥当性を検証するため本件請求情報を知ることは不可欠であるといえる。本件請求情報を公開することにより、区政が公正又は適正に執行されたかどうかを区民が検証することができるようにすることが、情報公開制度の目的である「住民自治と開かれた区政の推進」(条例第1条)にも適うといえるのであり、それによって区政の公正又は適正な執行を著しく妨げるおそれが生じると解すべきではない。

(4)事務執行妨害の程度

和解により訴訟はすでに終了しているのであるから、本件請求情報の公開により、実施機関の学校法人に関する事務の公正又は適正な執行が著しく妨げられることはない。実施機関は、本件請求情報を公開すれば、今後、他法人、団体との同種の交渉を行う場合に、自由な発言、意見交換が妨げられるなど相手方を委縮させる事態を招来しかねず、ひいては交渉による最終的な合意の成立や紛争解決が困難になるなど区が行う交渉に著しい支障を来すおそれがあると主張するが、抽象的な支障のおそれを示すのみで、著しい支障のおそれの具体例を挙げて反対するものではなく、本件請求情報の公開により区政の公正又は適正な執行が著しく妨げられるおそれがあることを十分に根拠づけているとはいえない。
以上により、条例第8条第1項第3号イの定める非公開事由は、本件請求情報には存在しないと判断する。

5 既に公にされている情報の公開請求

情報公開制度の下では、法令等の規定により誰でも閲覧することができる情報及び一般に公表されている情報は、非公開情報の例外として公開するとされている。条例第8条第1項第1号アは個人情報についてこのことを定めているが、個人情報以外の情報についても、既に情報公開制度以外の制度によって公にされているものを情報公開制度において非公開とすべき理由はない。
区が学校法人を被告として訴えを提起したこと及び和解をしたことに関しては、事前に区議会の総務委員会及び本会議において審議、議決され、その内容は誰でも区議会のホームページから会議録を検索し閲覧することができる。「訴えの提起」に関する審議内容は平成28年10月3日開催の総務委員会会議記録、また、「和解」に関する審議内容は平成29年4月7日開催の総務委員会会議記録によりそれぞれ公開されている(以下、まとめて「議事録」という。)。
本件請求情報と議事録を照合してみると、区と学校法人との交渉における双方の主張、各種通知・要望書の内容等、本件請求情報の大半は議事録において公開されている。すべてが公開されているわけではないが、議事録に記載されていない情報を含む本件請求情報を公開することが、上述した地方自治法の規定の立法趣旨及び情報公開制度の目的に適ったことであり、情報公開制度を意義あるものにするといえる。

6 個人情報の非開示

本件請求情報のうち、個人の氏名は、公務員、法人の代表者及び弁護士を除いて、公開することで、個人の権利利益を害するおそれがあるので、公開しない(条例第8条第1項第1号本文並びにただし書ウ及び第2号)。また、学校法人及び弁護士の印影は、公開により偽造等不正利用され事業上明らかに不利益を与えると認められるため、非公開とする(条例第8条第1項第2号)。なお、審査請求人も学校法人の職員名および印影については公開を請求していない(2017年12月28日付異議申立書)。

第5 結論

以上の理由に基づき、当審査会は、冒頭で記したように、本件請求情報は、公務員、法人の代表者及び弁護士以外の個人の氏名並びに個人及び法人の印影を除き、公開すべきであるとの結論に達した。

中野区情報公開・個人情報保護審査会

委員 岸 本 有 巨
委員 熊 田 裕 之
委員 小 池 知 子
委員 幸 田 雅 治
委員 佐 藤 信 行(会長)

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