<東京黎明アートルーム>特別展 柴田是真―対柳居から世界へ―前編【まるっと中野】
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更新日:2025年10月29日
羽衣福の神図屏風 柴田是真筆(嘉永6年・1853年)
芸術の秋がやってきましたね。ナカノ観光レポーター、アート担当の「Kana Naka」です。
感性が研ぎ澄まされるこの季節に是非ご紹介したいのが、中野区唯一の美術館「東京黎明アートルーム」。
美術研究者や専門家からも広く支持を集める、知る人ぞ知る私立美術館です。日本美術を中心に東洋の古美術を、年間を通じて展示公開しています。
2025年は、開館10周年を記念し、9月から年末にかけて2回に渡り特別展を開催。
今回は、特集されることが珍しい、漆工家(蒔絵師)であり、絵師でもある柴田 是真(しばた ぜしん、1807~1891)の初公開68点を含む133作品を展示。広報の金野さんに見どころをご案内していただきました。
見どころ(1) 是真の絵画を見る
羽衣福の神図屏風 柴田是真筆(嘉永6年・1853年)
右隻に能〈羽衣〉を、左隻に狂言〈福の神〉を描いた能絵の屏風。
臨場感のある構図の中、人物の表情や衣装の文様までもが緻密に描き出されています。
羽衣福の神図屏風 柴田是真筆(嘉永6年・1853年)
特定の粉本(ふんぼん、下絵)を受け継いで描かれていたそれまでの能絵。
しかし、是真は自身の写生に基づいて特定の人物を描くという、新たな手法でこの能絵を描きました。
柴田是真の能楽粉本類と本画(江戸時代・19世紀)
22歳から約20年間に渡り行われた是真の能楽写生。
その写生は稽古能や楽屋内にも及び、観世宗家・宝生宗家※と深い信頼関係を築いていたことや、能楽に接する機会が少ない江戸庶民への能の普及という役割も担っていたことが分かってきたそうです。
※観世宗家:観阿弥・世阿弥から続くシテ方観世流の宗家
※宝生宗家:南北朝時代から続くシテ方宝生流の宗家で11代将軍家斉に重用された
(左)粉本三番叟図・麦雲雀図 「柴田是真粉本類」(江戸時代・19世紀)、(右)粉本翁面箱図 柴田是真筆(江戸時代・19世紀)
1807年、江戸時代後期の両国に生まれ、幕末・明治期に活躍した柴田是真。彼は11歳で蒔絵師としての道を歩み始めました。
しかし、それまで分業であった蒔絵の下絵を自らの手によって作成したいと考えた是真は、16歳で写生を基礎とした円山四条派の絵師の元、画の修業を始めます。皮肉にも、その卓越した画力から、先に絵師としてその名を知られるようになります。
雪中一笑図 柴田是真筆(明治時代・19世紀)
そんな是真ですが、このようなお茶目な絵画も遺しています。「竹」と「犬」の組み合わせは「一笑図」と呼ばれ吉祥画題として好まれたそうです。
見どころ(2) 是真の蒔絵を見る
柴田是真作の蒔絵印籠と根付(江戸時代・19世紀)
青海波宝舟蒔絵印籠 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
金粉溜地に青海波塗で波を表現。40歳~50歳代の作品。
蒔絵師としての是真は、江戸随一の袋物商「丸利」に見出され、印籠蒔絵師としてようやく頭角を現すようになります。しかし、時は天保の改革のころ。金銀の使用を厳しく統制された丸利のため、是真は従来の蒔絵の概念を超越し、金銀を使用しない「変わり塗」を数々生み出します。また、幕府御用達商人・松本兵四郎の依頼により100年以上途絶えていた難技法「青海波塗」を復活させるなど、蒔絵師として唯一無二の存在感を顕していきます。そして、その卓越した蒔絵の技術が評価され、後に最初の帝室技芸員※に任じられることとなります。
※帝室技芸員: 皇室による美術奨励のための栄誉職。戦後の日本芸術院会員や重要無形文化財保持者(人間国宝)に引き継がれた。
青海波貝尽蒔絵硯箱 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
青海波貝尽蒔絵硯箱 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
是真が生み出した変わり塗の代表とも言える青銅塗の地に、青海波塗で見事な波が表された硯箱。青銅塗は漆で青銅のような重厚な質感を出す技法。よく見ると、金粉を使用した貝のモチーフの中には吉祥文が散りばめられています。是真の超絶技巧(蒔絵技術)を随所に堪能できる傑作です。
大橘蒔絵菓子器 柴田是真作(明治時代・19世紀)
大橘蒔絵菓子器 柴田是真作(明治時代・19世紀)
洒落た文旦の一種の大橘の意匠と、モダンな分銅形のフォルムが印象的な菓子器。青銅塗を施した素地は、紙製の張抜き※。蒔絵の上にキラキラと光るのは、螺鈿(らでん)と言われる貝の装飾です。
※張り抜き:木型などの原型に和紙を何層も貼り重ねて作り、乾燥後に型を抜いて作成する工芸技法。
見どころ(3) 是真のサプライズを楽しむ
是真の作品は手に取った人を喜ばせたいという、洒落と遊び心に満ちていると言われます。
東京黎明アートルームでは作品を主役と考え、鑑賞者が見やすい展示を心がけているそうです。本展でも、是真の細部へのこだわりを堪能できる展示の工夫が随所に見られます。金野さんは「こんなところにこんな仕掛けがあると発見できたなら、是真に近づいたと感じてもらえるのでは」と話します。
青海波千鳥蒔絵三組盃 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
櫛目で波を表現した青海波塗の上に黒漆で描かれた千鳥の群れが見えます。
葡萄蒔絵硯箱 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
蟻2匹が米粒を運んでいる?レンズ外左上にも蟻が1匹。
籠秋草蒔絵香箱 柴田是真作(江戸時代・19世紀)
青銅塗地4cmほどの香箱。よく見ると右端には撫子が彫刻で表されています。
対柳居から世界へ!柴田是真特別展レポート後編
ここまで、東京黎明アートルームで開催中の柴田是真特別展レポート前編をお届けしました。
後編では、本展の最大の見どころ、是真のアトリエ『対柳居(たいりゅうきょ)』で生み出されたとみられる新出の写生や粉本類、さらに柴田是真が発明したとされる漆絵の展示についてレポートします。
東京黎明アートルーム
《特別展 柴田是真―対柳居から世界へ―》
開室期間:2025年9月15日(火曜・祝)~10月31日(金曜)
休室日:9月23日(火曜・祝)・10月3日(金曜)・10月19日(日曜)
開館時間:10時00分~16時00分 ※最終入室は15時30分
入室料金:一般 800円(20歳未満は無料)
※障害者手帳をお持ちの方及び介護者の方は400円引き
※20歳未満の方は年齢を確認させていただく場合がございますので、年齢のわかるものをご用意下さい
所在地:東京都中野区東中野2-10-13
アクセス:JR 東中野駅徒歩7分/都営大江戸線 東中野駅徒歩約7分/東京メトロ 東西線 落合駅徒歩約14分/丸ノ内線 中野坂上駅徒歩約13分
電話:03-3369-1868
ホームページ:
http://www.museum-art.torek.jp/index.html(外部サイト)
Instagram:
@torek_museum(外部サイト)
お問い合わせ
このページは区民部 文化振興・多文化共生推進課が担当しています。
