情報公開審査会答申(第6号)

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更新日:2023年8月3日

答申第6号
1991年9月11日

中野区長
神山好市 殿

中野区情報公開審査会
会長 井出嘉憲

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第2項の規定に基づく諮問に土江(答申)

1990年12月19日付、2中総総第532号による下記の諮問について別紙のとおり答申します。

諮問事項

区政情報一部公開決定処分に係る異議申立てについて(諮問)

1 審査会の結論

 本件異議申立ての対象とされた情報を公開しないこととした実施機関の決定は、本件放射能測定事業の趣旨に鑑み、不当とはいえない。ただし、中野区の情報公開制度の精神を踏まえ、後記の付帯意見を尊重して、区民への情報提供に区が積極的に取り組む必要があると判断する。

2 異議申立ての趣旨

 異議申立人は、1990年10月9日付で食品放射能測定台帳の写しの交付を請求したが、同年10月24日付で中野区長から同台帳のうち、「測定値1キログラムあたり10ベクレル未満のCs(セシウム)134,Cs(セシウム)137,K(カリウム)40、全Cs(セシウム)及び備考」(測定値とは、セシウム134とセシウム137の合量値)については公開できないとの通知を受けたので、その決定の取消しを求めるというものである。

3 異議申立人の主張要旨

 異議申立人は、異議申立て書及び1991年2月12日付意見書ならびに同年3月30日の審査会に対する口頭意見陳述において、次のように主張している。

(1) 個人情報以外の区の持つ情報のすべてを区民に公表すべきであり、情報の選択は区民にまかせるべきである。行政による情報の選択は、区民に判断能力なしとみなしていることと同じである。

(2) 1キログラムあたり10ベクレル未満の実測値

ア 区の導入した測定装置であっても、測定環境、測定条件を高めれば、測定の定量限界値を1キログラムあたり5ベクレル程度にすることは可能である(できるだけ検出限界値を下げる努力をしてほしい)。

イ 1キログラムあたり10ベクレルに近い数値が出た食品をさらに別の精密な装置で測定すること(ダブルチェック)により、このデータも役立てられる。

ウ これらの数値を学問的に利用しようというのではなく、できるだけ放射能を摂取しないように食品を選ぼうと、日常生活の中で生かしていきたいと考えているのである。

エ 1キログラムあたり10ベクレル未満であっても、放射能の遺伝的特性はなくならず、危険であることにかわりはない。

オ 制度発足の当初は、1キログラムあたり10ベクレル未満の数値も検体持ち込み者本人には知らせていた。

(3) 商品名、メーカー名、製造年月日

ア これらは個人情報ではないので、区の持っている全てのデータを公表すべきである。

イ これらのデータが公表されても、個々の購入先の商店を問題にするつもりではない。メーカー等に対して働きかけていくことに利用したいと考えている。区はいたずらに企業の利益を守ろうとしている。

4 実施機関の主張要旨

 実施機関は、1991年1月10日付理由説明書、同年4月11日付補充説明書、同年2月27日及び4月15日の審査会に対する口頭意見陳述において、次のように主張している。

(1) 事業の目的趣旨

ア この事業は、消費者相談の一環として区民の依頼に応じて放射能を測定するという中野区独自の事業である。

イ 区は、放射能測定の専門機関ではなく、食品の安全性に対する個々の消費者の相談に応ずるという事業の目的、区民の依頼に基づき区民の持ち込んだ食品中の放射能を測定するという事業の仕組みからいっても、商品名等を公表する必要はない。

(2) 1キログラムあたり10ベクレル未満の実測値

ア 区の導入した測定装置の通常の測定限界(測定値を一定の誤差範囲内で科学的に測定できる限度)は、1キログラムあたり20~30ベクレル程度である。区は、測定環境、測定条件を整え、1キログラムあたり10ベクレル程度まで測定装置の定量限界を高めたが、それ以上高めることはできない。装置の基本的性能に由来する測定限界が1キログラムあたり10ベクレルである。

イ 1キログラムあたり10ベクレル未満の数値は、機械的に表示されるが、放射能量を確定するためには科学的に有意な数値ではない。

ウ このように、確定できない数値を区が公表することは、区が事実に基づかない情報を公開することと同様の効果を与える危険がある。

エ この事業を開始する際、利用者と話し合い、1キログラムあたり10ベクレル未満の実測値は公表せず、1キログラムあたり10ベクレル未満と表示することで了解を得ている。

(3) 商品名、メーカー名、製造年月日

ア この事業では、商品名、メーカー名、製造年月日の記載を受付要件としていない。一覧表には、単に備忘的に記載したにすぎない。

イ 従って、商品名、メーカー名、製造年月日を区として調査・確認していないので、特定できない。

ウ また、商品名、メーカー名がたまたま記載されていた場合であっても、測定依頼を受けた食品は、同種の数多くの食品の中からたまたま持ち込まれたものなので、同種・同製品及び同種の他の食品との比較ができていないため、科学性・公平性を欠くことになる。

エ 区が、これらの情報を公表するには、法的根拠をもって自ら検体を収集した場合でなければできない。

5 審査会の判断

(1) 情報公開制度に対する基本的考え方

 「中野区区政情報の公開に関する条例」では、情報公開制度の目的を区民の知る権利を保障し、区民と区の情報の共有を図ることにより、住民自治と開かれた区政運営を推進することと定め(1条)、区民の情報公開の求めに対し区が誠実に応えることを基本としている。この区民の知る権利も絶対的で無制限なものではないが、非公開とするには、公開できない相当な理由が具体的にある場合に限られている(8条)。

(2) 中野区の放射能測定事業について

 この事業は、1988年中野区議会において放射能測定室の設置に関する陳情の趣旨が採択されたことから、1989年4月から区の独自の事業として開始されたものである。

 その背景には、1986年4月に発生したソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故による放射能汚染、特に輸入農産物を中心とする食品中の残留放射能に対する区民の不安に対応するというねらいがあった。

 区は、この事業を区民の依頼に応じ、区民が持ち込んだ食品中の放射能を測定するという方式で、消費者相談の一環として行っている。

 事業のしくみとしては、測定依頼の受け付け及び測定結果の通知は、中野区消費者センター(区民部経済勤労課)が受け持ち、測定業務は中野区衛生試験所(保健衛生部)が行っている。

 このように、放射能測定機を購入し、独自で放射能測定事業を行っているのは、東京都の市区町村の中では中野区だけである。また、同様の事業を行っている東京都において1キログラムあたり50ベクレルの数値までしか公表していないが、中野区においては1キログラム10ベクレル数値まで公表できる測定装置、態勢を採用している。

(3) 本件情報の非公開の是非について

a. 1キログラムあたり10ベクレル未満の実測値

 この事業は、前期(2)のとおり、個々の区民の依頼に基づき、区民の持ち込んだ食品中の放射能を測定するという、消費者相談の一環である。区が、装置の性能の限界を超えている疑いのある数値を公開することは、区が前記数値を公的に確認したと同じ責任を負うことになる。これは、事業の目的以上の責任を区に負わせるものであり、妥当ではない。

b. 商品名、メーカー名、製造年月日

 この事業は、前記(2)の通り、区民による検体持ち込み方式であり、区はこれらの情報を確認できないにもかかわらず、公開した場合は、区がこれらの情報を公的に確認したと受け取られる恐れがあり、妥当ではない。

(4) 付帯意見

 区の責任において、1キログラムあたり10ベクレル未満の数値も機械的には測定されるものであり、放射能測定台帳の一覧表には、これらの数値も記載されてきたものである。商品名、メーカー名、製造年月日も、本来、持ち込んだ区民には了知された情報であり、かつ、これらも放射能測定台帳の一覧表に記載されてきたものである。(もっとも実施期間は、本情報公開請求以降は、いずれも記載を取りやめている。)

 検体を持ち込んだ区民に対し、区がこれらの情報を提供することは、事業の目的、仕組みにも反せず、それによって、区が新たな負担を課せられるものでもない。

 区民は、この情報提供を利用して、主体的に情報を収集・活用し、結果としてこれらの情報が公開されたと似た状況を取得できるであろう。これは、区民との協働を重視する中野区の行政のあり方にも合致するものと思われる。

 今後これらの情報の一覧表への記載や持ち込み者本人に対する情報提供について、実施機関と利用者が、事業の目的、仕組みを踏まえ、充分協議することが望ましいと考える。

6 本件不服審査処理経過

  1. 1990年12月10日、異議申立人は、食品放射能測定台帳の一部非公開決定に不服があるとして、条例第13条第1項の規定に基づき、実機機関に異議申立書を提出した。
  2. 同年12月19日、実施機関は、本件異議申立てにつき、条例13条第2項に基づき、中野区情報公開審査会(以下「審査会」という。)に諮問を行った。
  3. 同年12月21日、審査会は、実施機関に対して非公開理由説明書の提出を求めた。
  4. 1991年1月10日、実施機関から審査会に対して非公開理由説明書が提出された。
  5. 同年1月12日、審査会は、実施機関から提出された非公開理由説明書の写しを異議申立人に送付し、意見書の提出を求めた。
  6. 同年2月12日、異議申立人から意見書が提出された。
  7. 同年2月13日、審査会は、異議申立人から提出された意見書を実施機関に送付した。
  8. 同年2月27日、審査会は、実施機関からの意見を聴取した。
  9. 同年3月30日、審査会は、異議申立人からの意見を聴取した。
  10. 同年4月9日、審査会は、実施機関に対して非公開理由補充説明書の提出を求めた。
  11. 同年4月11日、実施機関から非公開理由補充説明書が提出された。
  12. 同年4月15日、審査会は、再び実施機関からの意見を聴取した。
  13. 審査会は、本件異議申立てにつき、2月27日、3月30日、4月15日、5月8日、6月26日、7月24日、9月11日と審議を重ね、上記結論を得た。

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