情報公開審査会答申(第8号)

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更新日:2023年8月3日

答申第8号
1992年10月16日

中野区長
神山好市 殿

中野区情報公開審査会
会長 井出嘉憲

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第2項の規定に基づく諮問について(答申)

1992年1月8日付、3中総総第587号による下記の諮問について別紙のとおり答申します。

諮問事項

区政情報非公開決定処分に係る異議申立てについて(諮問)

1.審査会の結論

 本件異議申立に係る老人ホーム入所の申請および判定審査に関する区政情報を実施機関(中野区長)が非公開としたことは、妥当と認められる。

2.異議申立ての趣旨および経緯

 本件の異議申立人(以下「申立人」という。)は、1991年9月30日、中野区区政情報の公開に関する条例(以下「公開条例」という。)に基づき、実施機関である中野区長(以下「区長」という。)に対し、下記の区政情報の公開を請求したが、同年10月14日付でで、区長から非公開決定を通知された。

 「1991年度4月に行われた高齢福祉課における老人ホーム入所希望に関する『判定審査票』および『措置申請書』のうち申請者の事情が記載された文書(収入申告書、生活歴・病歴書、検診結果連絡票、養護・介護できない理由書)」。

 申立人はこの非公開決定を不服として、1991年12月4日、区長に対し異議申立てをした。そして1992年1月8日付で、区長から当審査会に対し、公開条例に基づく諮問がなされたものが本件である。

 当審査会の審理において実施機関・区長は1992年1月28日付で区政情報非公開理由書を提出し、これに対して申立人は、同年4月20日付で意見書を提出した。ついで同年5月18日、申立人は、補佐人4人とともに、当審査会に対し口頭意見陳述を行なっている。

3.審査会の判断

 当審査会は、申立人と実施機関・区長との間における各争点に対し、以下のように審理し判断する。

(1) 本件区政情報の個人情報性について

 実施機関は、本件区政情報は「本人及び親族の個人的な生活に関する状況が具体的かつ詳細に記載されているもの」で、「その全部が個人情報である」と主張している(非公開理由説明書)。

 それに対し申立人も、本件情報の個人情報性を全面的に争ってはおらず、ただ、個人名を部分秘としてもすべて特定個人情報になるのかどうかを疑問視している(異議申立書)。この点について実施機関は、非公開決定の理由書において「記載内容や筆跡から個人が識別される可能性がある」としており、それに対して申立人は、筆跡による特定は「極めてまれな偶然性」であると反論している(異議申立書)。

 当審査会が職権調査を含めて審理したところでは、a.本件の請求対象である老人ホーム入所「措置申請書」には、本人の生活歴・病歴や検診結果に関しかなり詳しい記載があるとともに、「養護・介護できない理由書」に関係家族たちの生活状況がその観点から具体的に記されており、またb.「老人ホーム入所判定審査票」にも、障害名を含む「身体及び日常生活動作の状況」、病名を含む「健康状態」、問題行動をふくむ「精神の状況」のほか、家族状況及び経済的状況などを加えた総合判定結果が項目的に記載され、これらはいずれも、個人名を伴うならば明らかに、いわゆる要注意情報(センシティブ・データ)として強いプライバシー保護を必要とする質の個人情報であると認められる。

 このうち、本人とその家族が記入する上記aの書類にあっては、個人名・住所・生年月日・性別や病院名・地名などを部分秘とした場合にも、高齢者本人と関係家族の生活状況に関する具体的・特徴的な記載内容から、近隣社会に知られるときには、特定個人情報として識別される可能性が一般に存し、全く個人情報でなくなることは容易に認められがたいと判断される。申請書類の筆跡による特定は、その一部の場面にすぎない。

 また、区職員のほうで記入する「老人ホーム入所判定審査票」は、概して該当項目に○をつける書式であるが、「健康状態」「住居の状況」「その他特記事項」などが記述式である上、「身体及び日常生活動作の状況」「精神状態」「問題行動」のチェックを合わせて、もしそれらが近隣社会に知られるならば、上記の個人名等を伏せたとしても、全く特定個人情報にならない可能性は、ごく小さいものと判断される。

 それに加えて、同判定審査票中の「家族の状況」欄は、家族の「氏名、続柄、年齢」と「備考」(住所)とも、すべて個人情報として部分費にすべきところであるが、それらの家族情報はまさに介護可能性に深くかかわるもので、ひいて本人の要措置性の「総合判定」を左右しうる情報であるため、同判定審査票においては、他の情報内容と不可分一体的なものと目さざるをえない。そこで、この家族情報欄は、公開条例8条2項にいう、「請求情報に公開できない情報が含まれている場合において、当該公開できない情報の記録部分を公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるとき」に当たらず、結局、部分秘にはできず、全体として判断せざるをえないことになるのである。

 更に、申立人は、口頭意見陳述において、本件情報と同種のものが区の委託調査報告書に公表されていると指摘したので、当審査会は職権で該当する報告書を取り寄せて検討した。たしかに、中野区・東京都社会福祉協議会「在宅サービスのニーズと供給基準に関する調査」(1990年3月)123~6頁には、区内地域別の個別ケース4事例が記述されている。しかしながら、上記4事例のみが調査報告書に公表されたことと、本件請求のように全事例を一般公開されることとでは、個人情報保護のうえで大いに開きがあるものと認められる。なお、今後こうした調査報告書にあっては、地域名などの公表を含めて個人情報保護の見地からの十分な配慮が必要であると考えられる。

(2) 個人情報を公開すべき場合に関する法解釈

 本区の公開条例9条1項によれば、「実施機関は、区政情報のうち個人情報の公開請求があったときは、請求理由を聴取の上、公開することを相当と認める場合に限り、公開するものとする。」

 実施機関は、この個人情報を例外公開することが「相当」な場合の認定については、本区の個人情報保護条例(以下「保護条例」という。)18条1項にいう外部提供制限を類推適用すべきであると解釈し、本件情報は同条項1~3号(「法令の定め」、「本人の同意」、「人身等緊急保護」)に該当していないと主張している(非公開理由説明書)。それに対し申立人は、同条項4項(「審議会の意見を聴いて、実施機関が公益上特に必要があると認めるとき」)との関係を問わないのは失当であると反論している(意見書)。

 たしかに、公開条例9条1項が定める個人情報の例外公開自由については解釈の必要があり、保護条例の外部提供制限の精神は肝要であるが、同条例18条1項の類推適用に依ろうとすることは適切とは言えない。

 逆に、同条項1号にいう「法令の定め」に公開条例9条1項が含まれるという解釈ができるのだからである。そこで、個人情報の例外公開が「相当な場合については、保護条例の条文そのものによることなく、事柄の性質に則し条理に叶った解釈を行わなければならない。

 中野区企画部『中野区政情報の公開に関する条例の解釈・運用指針』(1991年3月改訂版)40頁は、個人情報を「公開することが公益上必要な場合」を挙げ、「個人の生命、身体、財産の保護その他公共の安全の確保等のため」がそれであるという解釈を公にしている。そこに例示された心身保護のための個人情報公開の必要は、確かに見やすいところであるが、必ずしもそれに限定することはできないであろう。

 想うに、個人情報を例外公開すべき場合は、個人プライバシーの保護の必要と、社会公共的な情報公開要請とを比較校了して決すべきであって、一概には論定しがたい。しかしそこにおいて、個人情報がプライバシー保護の必要度の高い要注意情報(センシティブ・データ)である場合には、それを一般公開させる社会公共的要請はよほど大でなくてはならず、やはり人身保護目的の必要性などに限定されるものと考えられるのである。

(3) 本件個人情報の公開の是非にかかわる事項

 本件の個人情報を公開すべき理由として、申立人は、老人ホーム入所判定の公正確保のために第三者的な住民監視が重要であり、それには判定審査および入所申請の個表情報のつき合わせ検討が有効であると主張している(異議申立書、意見書)。

 それに対し実施機関は、入所判定の「制度的な公正さ」は、法令および厚生省指導の下で「職員以外の委員が参加する特別の審査機関である入所判定委員会」によって保障されていると主張し(非公開理由説明書)、それについて申立人は、同委員会は3人の区職員と区福祉部長が委嘱する3人の委員による公正であって、「不特定な第三者の存在」による公正確保のしくみにはなっていないと批判している(意見書)。

 なるほど、区における老人ホーム入所判定審査は、入所措置決定前段階にすぎないとしても、その公正確保は大事であり、それに役立つ住民一般への情報公開は重要な問題であると考えられる。

 申立人が主張する公正確保のための情報公開の必要性について考えるとき、本件公開請求をめぐる経緯において実施機関側が示そうとした、申請内容の統計資料等が十分な情報提供であるかはともかく、入所判定委員会における判定の基準や判定審査の先例類型などに関する情報が明らかにされうるならば、申立人が唱える住民監視に役立つものと考えられよう。

 しかしながら、(1)で判断したとおり、入所申請や判定審査の個票文書にあっては、不可分一体的な家族情報記録を含むとともに、本人名等を伏せても近隣社会において特定個人情報性が全くなくなる余地を容易に認めがたいところである。こうした高齢者本人と関係家族の立ち入った個人生活情報を公開させるためには、やはり人身保護・防災目的の緊急対応の必要といった明らかな優先的理由がなくてはならないと考えられる。本件で申立人が主張する、老人ホーム入所判定の公正を確保するための住民監視や入所判定委員会の改組問題などは、いまだ本件個人生活情報を公開させる理由には足りない判断される。のみならず、入所申請や判定審査の個表の公開によって申請者と関係家族の個人情報が不特定多数人に広く知られることになる場合には、ホーム入所申請を抑制するような社会心理的影響も懸念しなくてはならず、これは一般第三者への本件情報公開に伴う難点である。

 なお、実施機関は、入所判定審査票における診断・評価情報は、「申請者本人に対してさえも原則として開示しないものである」ことをもって、本件非公開の追加的根拠にあげているが(非公開理由説明書)、その自己情報の本人不開示性は当審査会にとって未決の問題であるうえ、上記の判断によって本件個人情報の非公開が是とされる以上、ここで立ち入る必要はないと言える。

4 本件不服審査の処理経過

  1. 1991年12月4日、異議申立人は、老人ホーム入所判定関係資料の非公開決定に不服があるとして、条例第13条第1項の規定に基づき、実施機関に異議申立て所を提出した。
  2. 1992年1月8日、実施機関は、本件異議申立てにつき、条例13条第2項に基づき、当審査会に諮問を行った。
  3. 同年1月10日、審査会は、実施機関に対して非公開理由説明書の提出を求めた。
  4. 同年1月28日、実施機関から審査会に対して非公開理由説明書が提出された。
  5. 同年2月4日、審査会は、実施機関から提出された非公開理由説明書の写しを異議申立人に送付し、意見書の提出を求めた。
  6. 同年4月3日、審査会は、実施機関からの意見を聴取した。
  7. 同年4月27日、異議申立人から意見書が提出された。
  8. 同年4月28日、審査会は、異議申立人から提出された意見書を実施機関に送付した。
  9. 同年5月18日、審査会は異議申立人からの意見を聴取した。
  10. 同年8月26日、審査会は、再び実施機関からの意見を聴取した。
  11. 審査会は、本件異議申立てにつき、1月31日、4月3日、5月18日、7月20日、8月26日、9月16日、10月16日、と審議を重ね、上記結論を得た。

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