情報公開審査会答申(第27号)

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更新日:2023年8月3日

答申第36号
2007年1月31日

中野区長 殿

中野区情報公開審査会
会長 兼子 仁

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第2項の規定に基づく諮問について(答申)

2004年10月19日付け、16中総総第1908号による下記の諮問について、別紙のとおり答申します。

区政情報一部公開決定処分に係る異議申立てについて(諮問)

1 審査会の結論

(1) 本件の「懲戒処分起案」の本体部分(1号文書)に関し、非公開と決定された処分対象職員の情報のうち欠勤職員を除く2名の氏名・職名・所属は、本件では公的に識別可能な情報であるので、公開すべきである。

(2) 本件の「懲戒分限審査委員会要録」(2号文書)および「事件関係者聞き取り調査記録」(3号文書)は、関係職員の個人的な言動情報がその本体的内容であるとともに、職員履歴カードなどの個人情報文書を添付資料にしているので、全部非公開で妥当である。

(3) 上記の処分にかかる本件欠勤職員の修正後の「出勤記録表」および「休職願い、休職発令通知書」(4号文書)、ならびに他の処分対象職員の「出勤記録表」(5号文書。公表処分情報を除く。)は、同人らの個人情報として非公開が妥当である。

(4) 同上欠勤職員の出勤記録表で修正前のもの(6号文書)は自然消去により不存在であると認められる。

2 不服申立ておよび審査の経緯

(1) 異議申立人(以下「申立人」という。)は、2004年8月3日、中野区区政情報の公開に関する条例(以下「条例」という。)7条に基づき、実施機関である中野区長(以下「実施機関」または「区長」という。)に対して、「出勤簿の不適正処理」事件にかかる上記の各区政情報文書の公開請求をした。

 それに対して実施機関は、同年8月18日付けで、1号文書については対象職員の個人名等を非公開とする一部公開、2号、3号文書については、対象職員に関する「行政処分の経過及び個人の身分の判定に関する情報」等その他、欠勤職員の「疾病及び家族状況」に関する個人情報であることを理由に全部非公開、また、4号文書である同欠勤職員の出勤記録表(修正後)および休職願い・休職発令通知書ならびに5号文書である他関係職員の出勤記録表は個人情報であるため非公開、さらに同欠勤職員の修正前の出勤記録表(6号文書)については不存在を理由とする非公開、をそれぞれ決定通知している。

 それに対して申立人は、2004年9月24日、区長への異議申立てをし、同年10月19日付けで区長が当審査会に諮問をしたものが本件である。

(2) 当審査会の審査において、実施機関・区長から2004年12月8日付けで「一部公開理由説明書」(以下、「理由説明書」という。)が提出され、これに対して申立人からは2005年1月21日付けで「意見書」が提出された。その後、申立人は口頭意見陳述の意思がない旨表明しており、審査会は2005年9月26日に実施機関からの意見聴取を行っている。

3 審査会の判断

3-1 懲戒処分起案における対象職員の氏名等の非公開について

(1) 本件における1号文書である「懲戒処分起案」の本体部分は、「不適正な欠勤処理事故にかかる処分について」という件名の起案文書で、処分記事・処分「発令通知書」および「欠勤処理に関する事故報告書」(総務部長名)を本体部分とし、後述する2号、3号文書を添付資料としている。

 本件に関し区は、2004年6月9日の区議会総務委員会における報告事項「職員の処分について」として、本件の「事案の内容」について次のとおり報告した。「病気のため出勤できない部長級職員からすみやかに休暇等の届け出が提出されなかったため、出勤簿上の処理について、課長が部長と協議し、後日修正する意図をもって、平成16年2月16日から4月1日までの間、課長自ら当該職員の職員カードをもって打刻するなど、不適正な処理を行った。……このため、当該職員の出退勤管理や昇給などに関し、人事事務上の混乱を招き、庶務事務(出退勤)システムの信頼性を損なった」。そして「処分等の内容」の公表は、「総務部参事(55歳) 厳重注意、総務部参事(55歳) 減給1月1/10、区長室参事(50歳) 減給1月1/10」等とされたが、その際、処分対象職員の氏名および当時の職名・所属部署は公表されていない。

 そこで本件の公開請求に対して実施機関・区長は、1号文書の公開決定に際し、処分対象職員の氏名・職名・所属および区歴については、一部非公開としている。

(2) 実施機関の理由説明書によると、その一部非公開の理由は、「懲戒処分の公表基準」に基づき公表された以外の、「特定個人を識別できる情報」は「個人情報である」ということであった。

 しかし本区の条例9条1項では、「実施機関は、区政情報のうち個人情報の公開請求があったときは、請求理由を聴取のうえ、公開することを相当と認める場合に限り、公開するものとする」と規定している。そして、本件で実施機関・区長は、「懲戒処分等の公表基準について」(2002年12月20日区長決定)における原則に則って、対象職員の「所属部、職層、年齢」等だけを公表したのであるが、例外事由としては、「非違の程度が著しい事件又は社会に及ぼす影響が著しい事案で、区長が必要と認めたときは、……職員の所属・職名・氏名等の個人情報を公表することができる」とも、上記基準には記されている。

 当審査会では、目下のところこの処分公表基準の当否について一般的に判断する段階に至っていない。しかしながら本件にあっては、前記のように議会委員会に報告された「事案の内容」において、処分対象職員のうち出勤管理責任者の2名については総務部の「部長」および担当「課長」と表示されたので、その所属・職・氏名は公的に知られうる職員個人情報であったと認められる。そして現に、一般新聞紙上でも当該部課長の実名が報道される事実があった(2004年6月11日読売新聞記事)。

 そこで本件に関しては、処分対象部課長の氏名・職名・所属は、別途公的に識別可能であった職員個人情報として、公開すべきものと判断する(「区歴」等の個人情報は非公開のままでよい)。

3-2 関係した欠勤職員の出勤記録表および休職願い等ならびに課長職員の出勤記録表の非公開について

(1) 本件で非公開とされた4号文書は、前記の病気欠勤した職員の「出勤記録表」(2004年2月16日から4月1日まで)および休職願い・休職発令通知書である。

 実施機関の理由説明書によると、特定職員の「権利行使に関する情報」および疾病その他「特定個人を識別できる情報」であって、公表処分情報を除いて、「個人情報であることを理由に非公開とした」とされる。

 たしかに、そうした情報には、一面では行政公務員の欠勤という職務関係性が存するとはいえ、病気休暇や年次有給休暇といった個人的権利行使にかかわる面において、保護に値する個人情報性が認められる。

 つぎに、本件の休職願いとその休職発令通知書には、職員の分限処分にかかる人事行政関係性が存するとはいえ、やはり、病気を理由に医師診断書を付した休職願いであって個人情報性の方が強い。

 そこで両者とも、関係職員の「個人生活に関する情報」(条例2条3号)としての個人情報と解され、そしてそれを公開すべき「相当」な理由(条例9条1項)については、区民による区政監視の一般的要請のみではそれに該当しないと判断される(この点申立人から具体的主張は出されていない)。したがって、4号文書を非公開とした決定は妥当である。

 なお、当審査会が把握したところによると、4号文書は、関係する住民訴訟における東京地方裁判所の文書提出命令によって公開法廷に証拠提出されているが、この点については下記3-4(6)の判断中に表明するのと同旨の理由により、上記非公開を妥当とする結論を左右しない。

(2) 関連して本件請求にかかる5号文書は、上記欠勤職員の出勤管理に当った当時の課長職員の出勤記録表(2004年1月~2005年5月)である。

 これについても実施機関は、「職員の権利行使に関する情報及び特定個人を識別できる情報(懲戒処分の公表基準に基づき公表された情報を除く。)に該当する」との理由で、(一部)非公開を主張している(理由説明書)。これに対して申立人は、事件に関係した「幹部職員」の個人情報を公開すべき相当な理由があると主張している(意見書)。

 ところが、この課長職員の出勤記録表も上記の意味で個人情報に該当し、本件の職員欠勤への対応との関係における公開の相当理由が具体的に存するとは認められない。したがって、公表処分情報にかかわる部分を除く非公開の決定は妥当であると判断される。

3-3 関係欠勤職員の修正前の出勤記録表が不存在であることについて

 上記の病気欠勤職員の出勤記録表は、2006年5月に休暇および休職の取扱いが決定された際に修正された結果、修正前のそれは「不存在」となった旨、実施機関は主張している(理由説明書)。

 この点申立人は、同年2月から4月にいたる旧出勤記録表において打刻または不打刻の表示を確認したいとして本件請求を行っていた。そこで当審査会は実施機関聴取の際に特に質問したところ、出勤記録の電磁的処理にあっては、修正すると修正前のものは自動的に消去されてしまうシステムであることを確認した。

 したがって、修正前の出勤記録表は修正後の今日「不存在」であることを認めざるをえず、不存在を理由とした非公開決定も妥当であると判断せざるをえない。

 しかしながら、上記のような個人情報性を擁するとはいえ、区職員の出勤記録表は主要な「区政情報」にほかならないので、その理由ある事後修正の際にその旨の記録を残しておくことが望ましい、と当審査会は考えるものである。

3-4 懲戒分限審査委員会要録および事件関係者聞き取り記録の非公開について

(1) 本件において全部非公開と決定された2号文書は、前記(3-1)の職員処分を決するプロセスを記録している「懲戒分限審査委員会要録」(同委員会開催起案は公開ずみ)であり、同じく3号文書は、「事件関係者聞き取り調査の記録」である(それぞれ添付資料を含む)。

 実施機関は全部非公開の理由について、「区が行う行政処分の経過及び個人の身分の判定に関する情報並びに氏名や役職といった特定個人を識別できる情報や事故本人の疾病及び家族状況に関する情報といった個人情報が多く含まれているため」と主張している(理由説明書)。

 これに対して申立人は、本件は区の幹部職員による違法事件であって区民には事件の全容を知る権利があるのに、議会総務委員会の議事録では「肝心の事件全容が公開されないまま処分が行われてしまった」と主張している(異議申立書)。

(2) まず、順不同であるが、2号文書の添付資料に、関係職員の個人情報文書が多い。前記病気欠勤職員にかかる休暇願・欠勤等の届(診断書づき)、履歴カード、出勤記録表(前記修正後のもの)、給与減額整理簿(納入済通知書づき)、および前記課長職員の履歴カード、出勤記録表、ならびに部長職員の履歴カード、これらはすでに判断したところ(3-2)に照らし、部課長のそれを含めて個人情報として非公開であってよいと判断される。

 さらに、過去における「職員の事故及びそれに対する処分等」(2004年1月1日付け)の実名入り一覧表が資料提示されている。これは、前述した懲戒処分の公表基準等に照らしても、個人識別情報の束として、公開になじまないと認められる。

(3) 2号文書の本体部分は、「付議事案」「職員の不適正な欠勤処理について(総務部人事担当報告)」および「懲戒分限審査委員会要録」(委員会の会議に関する)である。実は、3号文書「事件関係者聞き取り調査の記録」は、上記人事担当報告の添付資料にほかならない。その3号文書は、前記の病欠職員、所管部課長その他人事担当職員の計4人からの聞き取りにかかるものである。

 当審査会の職権調査によると、たしかに、議会総務委員会の公開議事録の内容は、区職員の答弁を含めて事件経緯の概略にとどまっており、また、2004年12月13日付けで公表された本件に関係する住民監査請求にかかる監査結果通知書も、給与公金支出損害に関する内容が主で、職員不正行為の認定は簡単なので、本件2号、3号文書本体部分は、それらをはるかに越えて詳細に亘っていると認められ、その点申立人が想定するとおりである。

 すなわち、3号文書(聞き取り記録)においては、病欠職員本人が欠勤日の病状と治療および家族の病気について回答しているほか、関係部長による部内監督事情の説明、関係課長による欠勤処理にかかわる病欠職員・家族と連絡困難事情の説明、ならびに人事担当職員による出勤簿管理状況への判断と回答(人事担当処理経過説明書づき)が逐語要約的に記されている。また、4号文書(委員会要録)には、出席役職員による事件評価をめぐる会議の様子が逐語要約的にかなり詳しく記録されている。

(4) そこで当審査会として判断するのに、なるほど、職員の服務違反に基づく懲戒処分の決定プロセスに関する情報が詳しく公開されることは、区民の区政監視にかかわる区政の透明・公正化のために要請されるところであろう。しかしそれとともに、職員懲戒処分の情報は行政公務員の身分保障にかかわる個人情報性を有しており、前記区の「懲戒処分の公表基準」もそれを前提にしていると目される。

 加えて、現行の公務員法制にあっては、懲戒処分の事前手続として対象職員の権利保障となるしくみが明確に定められていない(行政手続法による「聴聞・弁明」手続が公務員には適用されない。同法3条1項9号)。そのため職員処分を決定する手続は、多分に任命権者の行政裁量にゆだねられて、法的にも大いに流動的なしくみになっている。本件における関係者の聞き取りも懲戒分限審査委員会の会議も、行政内部における非公開的しくみにほかならない。それ故に処分手続的記録の公開要求が合理的に成り立つとも思われるところであるが、当審査会は目下そうした処分手続情報の公開問題に一般的解釈を示すことはできがたい。

(5) ところで、本件における処分決定プロセスの記録である2号、3号文書の情報内容を精査してみるとき、本件が特定の病気職員の出勤簿管理にかかわり、所管の部課長職員が欠勤職員とその家族との連絡に困難を意識した特殊事情に起因していたため、関係職員の服務違反に個人行動面が色濃いと認められる。

 そこで、2号、3号文書の本体の記録内容もほとんどが関係職員の個人的な言動の見定めおよび評価にかかわっており、2号、3号文書本体は関係職員の個人情報性がその全体に亘って濃厚であると目される。他方において、そうした職員個人情報の詳細を公開するほどの「相当な理由」が存するか否かに関しては、上記の職員処分手続法制の現状に照らすとき、全部公開を義務づける根拠は十分ではないと解される。

 なお、2号、3号文書の本体記録の全体に亘る職員個人情報性からして、部分秘と部分公開を合理的に区分すること(条例8条2項に基づく)はできがたいものと考えられる。

 かくして、本件2号、3号文書を全部非公開とした実施機関の決定は妥当と判断される。

(6) さらに、当審査会が把握したところでは、本件の2号、3号文書は、関係する住民訴訟における東京地方裁判所の文書提出命令によって公開法廷に証拠提出されている。そして、民事訴訟法91条1・2項によると、公開の口頭弁論にかかる訴訟記録は何人でも裁判所書記官に閲覧請求できる。しかしながら、そうした裁判所での法定手続による情報取扱いは、本区の条例に基づく情報公開とは制度的に異なる。とりわけ、条例に基づく公開にあっては、閲覧と同じ範囲で写しの交付を求めうるのに対して、民事訴訟法91条3項によると、上記訴訟記録の「謄写」は「当事者及び利害関係を疎明した第三者」に限っている。したがって、本件請求文書が公開法廷の訴訟記録に含まれているとしても、その一般閲覧は裁判所での法定手続によるべきところで、条例に基づく本件公開請求とは制度的に別個であると解され、上記非公開を妥当とする結論を左右しないと判断されるのである。

以上の審査の結果、当審査会は標記のとおり結論する。

中野区情報公開審査会

委員 稲垣隆一
委員 兼子 仁(会長)
委員 堀部政男
委員 桝潟俊子

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