情報公開審査会答申(第16号)

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更新日:2023年8月3日

答申第16号
1998年9月11日

中野区長 殿

中野区情報公開審査会
会長 井出嘉憲

中野区区政情報の公開に関する条例第13条第2項の規定に基づく諮問について(答申)

1995年10月26日付、7中総総第410号による下記の諮問について別紙のとおり答申します。

区政情報非公開決定処分に係る異議申立てについて(諮問)

1.審査会の結論

 本件に関する「区政情報非公開決定」は、中野区区政情報の公開に関する条例(以下「条例」という。)にうたわれている原則公開の理念に反し、区民の中野区政に対する信頼を損なうおそれがある。「建築計画概要書」(文書不存在)に代わるものとして「行政指導書」を一部公開すべきである。

2.異議申立ての経緯

 本件は中野区大和町 丁目に存在する建築物(1983年建築と1986年建築の木造二階建て共同住宅)の「建築計画概要書、行政指導書」に対して、1995年8月15日、近隣に居住する異議申立人(以下「申立て人」という。)から公開請求がされた。これに対して区は同年8月18日に、非公開決定処分を行った。

 この処分を不服とした申立人が同年10月13日、異議申立書を提出、それを受けて実施機関である中野区長が中野区情報公開審査会(以下「審査会」という。)に諮問をしたのが本件である。

3.実施機関の非公開理由

(1) 建築計画概要書は文書不存在

 建築計画概要書とは、建築基準法6条の規定による建築確認申請に際して提出される書類である。

 そこには、建築主、敷地の位置、設計者、工事施工者、配置図等が記載されている。

 しかし、本件請求に係る建築物に関しては、建築確認申請がなされていないため概要書は提出されておらず、文書不存在である。

(2) 本件の行政指導書は個人情報に該当する

 行政指導所とは、違反建築が発見された時点から、その所有者に対する行政指導が完了するまでの指導経過の記録である。その記載事項は、設計図書、違反内容、関係者の発言内容、現場実地調査の経過、現場写真、指導の内容等、違反建築物に対する是正指導と取り締まりに関する文書である。当然、対象となる個人の過程および居住状況に立ち入った情報が記載されており、条例2条3号に規定する個人情報に該当する。

 条例9条1項には、公開請求の理由が相当と認められる場合に限り公開できるものとされているが、申立人の請求に関しては公開に相当する理由を認めることはできない。

 また、この文書は全体にわたって個人情報が存在しているため、一部公開もすべきでない。

(3) 適正な行政執行に支障をきたす

 行政指導書を公開した場合、建築指導行政の適正な執行に支障をきたすおそれがある。

 法令等の基準に基づき適正な指導を行うのが当然だが、指導経過記録の行政指導書を公開した場合、具体的な是正指導の内容、時期等の情報が明らかにされるため、この程度なら取締の対象にならないというような、遵法精神の低下や脱法行為を助長し、結果として是正指導業務の適正な執行を妨げることになる。条例8条1項の公開できない相当な理由に該当する。

4.申立人の主張

(1) 建築計画概要書が不存在であるとしても申請受付番号と日付は台帳原本があるはずである。着工前から行政指導を受けた建物で、記録はあるはずである。

(2) 本件の建築物は、建築基準法、消防法、とし安全条例に違反した共同住宅であり、着工前から近隣住民によりその違法性、危険性が指摘され、区に対しても、その点を訴えていた。

 然るに、区の行政指導により、現実に建物が完成した。近隣住民として中野区はどのような行政指導をしたのか、指導内容の公表と説明の義務があり、区民として知る権利があると考える。

 建築計画概要書が存在しない場合は行政指導所がそれに変わる文書であり、建築計画概要書が建築基準法93条の2で公開できるとされている以上、行政指導書も公開されてしかるべきである。また、個人情報に該当するという区の主張であるが、当該2棟の建物は賃貸を目的として建てられたもので、建主は居住していない。

 また、条例では個人が経営する事業に関する情報は個人生活に関する情報ではないとしている。

 従って、個人情報には該当しない。

(3) 行政指導書を公開することで、事実経過を知ることができる。

 違反建築の是正指導業務に支障をきたす指導のあり方は、区民が区の行政指導に不審を抱く原因となる。情報の公開、共有化が必要不可欠な時代である。区民が行政参加し、協力し、監視し、改善しながら、より質の高い行政を築く時代ではないだろうか。

5.審査会の判断

(1) 本件の背景

 本件は過密化が顕著な地域で建築基準法に違反した共同住宅の建築に対する区の行政指導内容を明らかにしてほしいという要請である。

 接道不適合敷地のため、近隣には居宅と称し、実質は賃貸用の共同住宅を建てるという違反建築に関する問題である。

 阪神大震災以来、都市防災に対する区民の関心が高まっている折りでもあり、違反建築に対する区民の目はますます厳しさを増している。特に区がどういう指導を行ったかという指導内容に対する関心は、今後高くなると思われ、行政の透明性をより高めていくことが、時代の要請にもなっている。

(2) 建築計画概要書の有無について

 本件は法に基づく正規の手続きをとらないまま工事に着工したケースであり、建築計画概要書そのものは不存在であると判断する。

(3) 行政指導書の公開の是非

 建築基準法93条の2で公開できるとされている建築計画概要書が提出されていなければ、周辺住民はどのような建築物が立つのか事前にはわからない。その結果、違反建築が完成したとなれば、どういう行政指導が行われたかを知りたく思うのは当然であろう。

 したがって、建築計画概要書が存在しない場合、それに代わるものとして行政指導書が位置付けられるのは、情報公開の精神から言って当然のことである。

(4) 行政指導書の記載内容は個人情報に該当するか否か

 一般的に言って、行政指導書には建築物の内容や家庭状況などが記載されており、保護されるべき個人情報である場合が多いと思われる。だが、本件の場合、当初から賃貸用の共同住宅である。

 条例の解釈では、個人事業活動に関する情報は個人情報から除外するとあり、共同住宅の建築という点からも、本件は、事業情報と見るのが妥当であり、厳しく守秘されねばならない個人情報であるとは認めがたい。ただし、違反が指摘され指導されたことについての違反者の対応言動情報(行政指導に対する意見、申し入れ、約束、拒否などの発言や行動)については、別の配慮を必要とする。

(5) 行政指導書の公開は、建築指導行政の適正な執行に支障を生ずるか。

 行政指導書には具体的な違反に対する是正指導の内容や時期などが記載されており、それが公開された場合、それが”前例”となりかねず、遵法精神の低下や脱法行為を助長し、違反建築物に対する是正指導業務がやりにくくなるという実施機関の主張は一応理解できる。

 だが、本来、行政指導は、法令等の基準をもとにしつつも、個別ケースの事情に応じ、行政の裁量権内において柔軟に対処しうるものである。指導内容の公開が即”前例”になるものではない。今回の接道不適合敷地の建築計画の指導においても、その指導基準は極めて一般的であり、その意味では、区民に秘匿しておかねばならない内容とは考えられない。ただし、行政指導については、それが、その種の違反を是認することになる運用姿勢と受け取られ、建築指導行政の公正または適正な執行を阻害するおそれがあることにも配慮が必要であろう。

(6) 非公開とすべき部分

 以上の検討をもとに、審査会が本件請求情報のうち公開すべきでないと判断した基準は以下のとおりである。

  1. 特定個人の住所、氏名など、およびいくつかの要素が重なって個人が識別可能となる事項で個人生活に関する情報
  2. 個人の評価につながる建築主および第三者の対応言動情報
  3. 行政指導のうち、それが、その種の違反を是認することになる運用姿勢と受け取られ、公正または適正な行政執行が阻害されるおそれのある事項

 審査会は、上記の判断基準に基づき、請求情報を閲覧して、具体的に非公開とすべき部分を特定した。それは、別添の文書で抹消している部分である。

(7) 建築指導行政の問題点と情報公開制度

 ほかの自治体の中には、公開しないことができる公文書として「行政執行に関する情報」を挙げている場合があるが、本区の場合には、そのような規定がない。

 これは、区政情報を極力、区民に公開しようという区の姿勢を示すものと評価したい。災害に備えた街づくりの必要性が言われている今、過去の暗黙裡に行われてきた行政指導の内容を”前例”とするのではなく、”前例”に誤りがあればそれを正し、中野区における都市計画や住環境整備について、区民とともに考えていく姿勢をとることが望ましい。

 過密化した中野区において、現実に違反建築が避けられないとするならば、むしろ、行政指導の内容を限定しながらも公開することが、区民の違反建築への関心を高め、違反の抑止にもつながるであろう。

 行政指導という日本的行政手法が、国際的にも批判を浴び、行政の透明性を高める努力が現に進められている今、公開が違反建築を助長するといった考え方は、区政と区民との間の信頼関係を損なう事にもなりかねない。

 基本構想の理念として「ともにつくる人間のまち中野」の中野区が、こんかい、違反建築に関わる行政指導書を一部公開することで、区民から信頼される行政の姿勢をさらに高めることを期待したい。

6.本件不服審査の処理経過

  1. 1995年10月13日、申立人は、1995年8月18日付の公開請求に対する区政情報非公開決定処分に不服があるとして、条例13条1項の規定に基づき、実施機関に異議申立てを行った。
  2. 1995年10月26日、実施機関は、本件異議申立てにつき条例13条2項の規定に基づき、当審査会に諮問を行った。
  3. 1995年10月30日、審査1会は、実施機関に対して非公開理由説明書の提出を求めた。
  4. 1995年11月30日、実施機関から審査会に対して非公開理由説明書が提出された。
  5. 1996年1月10日、審査会は、実施機関から提出された非公開理由説明書の写しを申立人に送付し、意見書の提出を求めた。
  6. 1996年5月31日、審査会は、申立人から意見書を受理した。
  7. 1996年8月13日、審査会は、申立人からの意見を聴取した。
  8. 1996年7月4日、審査会は、実施機関からの意見を聴取した。
  9. 審査会は、本件異議申立てにつき、1996年7月4日、8月13日、9月27日、10月28日、11月13日、12月20日、1997年2月27日、3月27日、4月23日、5月21日、6月27日、7月23日、8月20日、9月30日、10月29日、11月28日、12月24日、1998年1月14日、2月4日、2月12日、3月23日、4月6日、5月22日、6月26日、7月11日、8月14日、9月11日と審議を重ね、上記結論を得た。

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