<東京黎明アートルーム>特別展 良寛の書簡 (1)―生い立ち・家族編

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更新日:2025年12月23日

良寛上人像《ざくろ》平櫛田中作

今から200年以上前、清貧を貫き、托鉢僧として生きた良寛(りょうかん・1758-1831)。その生き方には、現代が求める「心の豊かさ」のヒントがあります。

中野区で唯一の美術館「東京黎明アートルーム」では、良寛の書簡(手紙)を集めた貴重な展覧会が開催中です。親交のあった人々の書など、ゆかりの作品を含め約80点を展示。人々とのつながりから見えてくる良寛の人となりとは?

ナカノ観光レポーター「Kana Naka」が全3回にわたりレポートします。

父・以南の影響

良寛の家族が遺した書を展示するコーナー

良寛は江戸時代後期の1758年、現在の新潟県・越後国出雲崎(いずもざき)に生まれました。佐渡島で産出された金銀の陸揚げ港であった出雲崎は、幕府の直轄地「天領」として栄え、活気に満ちていたといいます。良寛の生家である橘屋山本家も回船業で繁盛し、また由緒ある石井神社の神主を兼ねる名主として地域社会を支えていました。

短冊 俳諧『チゝンチン』橘以南(江戸時代 19世紀)/短冊 俳諧『よの中は』良寛(江戸時代 19世紀)

良寛が生まれる3年前、良寛の父・以南(いなん・1737-1795)は19歳で山本家の養子であった秀子(1735-1783)に婿入りし、名主後継者となります。久村暁台(くむらきょうたい・1732-1792)※1に師事し、松尾芭蕉を敬慕する俳人でもありました。俳人として高い評価を得ており、同時代を生きた小林一茶も以南について書き記しています。以南は良寛が38歳の時、自ら命を絶ちました。

良寛は、以南が独特の書体で書き遺した俳句を生涯大事に持ち続けました。その余白には良寛自身が書き記した和歌が添えてあったそうです。

「みづくきの跡も涙にかすみけり ありし昔のことを思ひて―良寛」(本展では展示されていません)
~父の筆の跡を見ていると、生きていた日のことが思いだされて涙で字がかすんでしまうよ~

展示の作品は、そんな父子の俳諧がひとつの掛軸に寄せられている一幅。四十雀のさえずり声を「チゝンチン」と表現した父と、「世の中は桜の花になりにけり」と詠んだ良寛。以南の死の翌年、良寛は39歳で越後へ帰国したといわれています。

※1 尾張(名古屋)の俳人。松尾芭蕉の俳風復興に努めたことでも知られている。

弟・由之との交流

良寛の弟・由之との書簡を展示するコーナー

7人兄弟の長男であった良寛は18歳で隣町・尼瀬の曹洞宗光照寺(こうしょうじ)で出家しました。その4年後には、訪れていた国仙和尚に従い、備中(岡山県)玉島の曹洞宗円通寺(えんつうじ)へ。師から悟りの境地に達したことを証明する印可(いんか)の偈(げ)を授かるまでの10年以上を円通寺で過ごしました。

そのため次男である4歳年下の由之(ゆうし・1762-1834)が25歳で家督を継ぎます。由之は良寛とは対照的に弁の立つ手腕家であったといいます。しかし1810年、由之49歳の時に妻やすが死去。さらに家財没収・所払いという苦難が続きます。良寛は自暴自棄となっていた由之へ何通も書簡をしたため、見守りました。

由之は諸国を放浪した後、父・以南の出身地でもある与板(よいた・長岡市)で剃髪出家し、余生を送ります。由之もまた国学・和歌に優れ、数々の歌や著書を遺しました。

本展では由之が隠居した後に良寛と交わした書簡が展示されており、穏やかな日々を分かち合う兄弟の絆を垣間見ることができます。

和歌『世の中に』良寛(江戸時代 19世紀)

「世の中に恋しきものは浜辺なる 栄螺(さざえ)の殻の蓋にぞありける―良寛」(1829年・文政12年)頂きものの壺の蓋として、さざえの蓋を探してほしいと由之へ伝える歌。

書簡 良寛宛『尊書奉拝見候』山本由之(江戸時代 19世紀)東京黎明アートルーム蔵

「わたつみの神に幣してあさりてん 君がほりする栄螺(さざえ)の蓋は―由之」
冬の季節ゆえに見つからなかったことを伝え、海の神に幣(ぬさ=供え物)を捧げて探してみようと詠んでいます。

書簡 由之宛『ありそみの』良寛(江戸時代 19世紀)東京黎明アートルーム蔵

「荒磯海(ありそみ)の沖つみ神に幣(まひ)しなば 栄螺(さざえ)の蓋はけだしあらむかも―良寛」
海の神様にお祈りしたならば、きっと見つかるだろうと由之へ送った返礼の和歌。兄弟のユーモラスな和歌のやり取りが、穏やかな日常と深い絆を物語っています。

つづきは良寛の書簡特別展レポート<貞心尼・友人編>へ!

ここまで、東京黎明アートルームで開催中の良寛の書簡特別展レポート<生い立ち・家族編>をお届けしました。次編では、良寛の晩年を彩った貞心尼との出会い、庇護者でもあった阿部定珍や三峰館時代からの学友たちとの温かな交流をご紹介します。和歌を詠み交わし、心を通わせた人々との絆から見えてくる、良寛の人間味あふれる姿をお楽しみに。

東京黎明アートルーム

《特別展 良寛の書簡》
開室期間:2025年12月25日(木)まで
休室日:12月23日(火)
開館時間:10:00~16:00
※最終入室は15:30
入室料金:一般 800円(20歳未満は無料)
※障害者手帳をお持ちの方及び介護者の方は400円引き
※20歳未満の方は年齢を確認させていただく場合がございますので、年齢のわかるものをご用意下さい。
所在地:東京都中野区東中野2-10-13
アクセス:JR 東中野駅徒歩7分/都営大江戸線 東中野駅徒歩約7分/東京メトロ 東西線 落合駅徒歩約14分/丸の内線 中野坂上駅徒歩約13分
電話:03-3369-1868
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このページは区民部 文化振興・多文化共生推進課が担当しています。

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