アニメ文化を創るクリエイター座談会レポート
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更新日:2025年10月15日
世界的なアニメ関連企業が集結するまち、中野
東映アニメーション、トムス・エンタテインメント、ブシロードムーブ、マッドハウス、MAPPA。アニメ好きでもそうでなくても、これらの会社が手掛けた数々の名作、コンテンツに触れたことがない人はいないのではないでしょうか。共通点はなんと、「中野」にあること。世界的に拡大を続けるアニメ産業は、今や3600億円を超える市場となり、中野区のアニメ関係企業はとても多くの作品を送り出しています。
今回は、各社から今が「旬」のクリエイターの皆さんにお集まりいただき、アニメ業界のリアルな仕事の話から、日々のルーティン、そして「中野」への想いまで、たっぷり語っていただきました。
■どうしてアニメ業界に?
藤津:皆さん、アニメ業界の第一線で活躍されていますが、そもそもどうしてこの業界に入ろうと思ったんですか?
小川:僕は全然違う業種で働いていました。転職を考えて求人サイトを見ていたら、たまたまアニメ制作会社の募集があったんですが、まず未経験でもいけることに驚きました。
藤津:1社目がMAPPAですか?
小川:別の会社でしたが、アニメ業界が肌に合うと感じました。1年ほど経験を積んだ頃、マッドハウス創業者の丸山さんがMAPPAを立ち上げたと聞き、「ここだ!」と思って入りました。
藤津:新卒のときはアニメ業界に興味はなかったんですか?
小川:アニメは好きでしたけど、専門的な勉強をしていないと無理だと思ってました。でも求人サイトに普通に載ってて、「意外と間口広いんだな」と。
岡田:僕は関西の大学に通ってたんですが、授業が面白くなくてアルバイトばかりしてました。それが親にバレて、実家に戻されて…。大学に行くふりして映画館に通ってました(笑)。
藤津:そのときにアニメに出会ったんですか?
岡田:はい、映画館で初めてちゃんと観て「アニメって面白いな」と思って。当時アニメは稼げないって言われてたけど、やりがいがあるならいいかもと思って応募しました。受かったとき「明日から来れる?」って言われて、「1ヶ月後なら」と交渉して、大学を辞めて東京に出てきました。すべてを捨ててでも、好きなことに賭ける挑戦でしたね。
川野:大学で美術学科を学んでいました。就活では別業界も受けましたが、元々アニメが好きで、アニメ会社は話の合う人が多そうだと思って入りました。
藤津:アニメを好きになったきっかけは?
川野:そんなに観てこなかったんですが、大学時代に深夜アニメが流行って、観てみたら面白くてハマってしまいました。
濱野:僕も別業種からの転職です。仕事を辞めたタイミングで、知人に誘われてブシロードに入りました。
最初は営業でしたが、音響制作の担当が退職してしまって、「耐性ありそうだ」って言われて(笑)、音響やキャスティングをやることになりました。
藤津:アニメの思い出は?
濱野:大学の頃にテレビで観てたくらいです。でも、関わるようになってからは、情熱を持って作っているスタッフを知って、キャスティングで作品を台無しにしないようにと、必死にやっています。今では裏方として支えることにやりがいを感じています。
藤津:制作工程のバトンでいうと、後ろの方ですもんね。視聴者に届ける責任感がいりますね。
内納:私は幼い頃からプリキュアが大好きで、当時はプリキュアのキャラになりきってお父さんをボコボコにしていたことも(笑)。学生になってからもプリキュアは定期的にチェックしていたのですが、大学生のときに「プリキュア展」 へ訪れた際、プリキュアに込められていたメッセージに改めて感動して、「この作品を作った会社に入りたい!」 って思いました。
藤津:グッズ企画に興味があったんですか。
内納:もともと、自分の好きなコンテンツのグッズを買うことがすごく楽しくて。もうすぐ新商品の発売日があるから頑張ろう、と日常の活力になっていたんです。大好きなプリキュアのキャラクターグッズを作って、誰かの日常に少しでもときめきを与えられたら...と思い入社しました。
藤津:アニメ会社に入ってからの発見はありましたか?
内納:アフレコ現場はカルチャーショックを受けました。現場はすごく冷静で緊張感があるのに、声そのものに驚くほどの感情が乗せられていく。そのギャップがかっこよかったです。
■一日のルーティン
藤津:アニメ制作の現場では、皆さんそれぞれどんなお仕事をされていますか?
濱野:アフレコがある日以外は、基本メール対応です。主に声優の出演依頼が、1日に300-400件くらい来るので、返信しているうちに、気がつけばお昼になっています。。キャスティングの候補を精査したり、アフレコのスケジュールを調整したり、頭の中は常にフル回転ですね。
藤津:沢山メールを処理していると、頭が情報でいっぱいになりませんか?
濱野:モニターに“やることリスト”を常に表示して、更新しながら進めています。最初はリストが減らなくて焦りました。
小川:僕の場合は、担当している作品の放送が近づくにつれて忙しくなります。今は準備期間なので、先々の予定を立てたり、やるべきことを整理して一つずつ片づけています。まさに、自分との戦いですね。
藤津:忙しくなると、また違いますか?
小川:朝から晩まで打ち合わせで終わる日もあります。アフレコが始まるとスタジオに詰めるので、すき間時間にノートPCで作業しています。ルーティンが決まってないのが、逆に楽しいですね。
内納:私はオフィスにいることが多く、 午前中は企画書や資料作成、午後はグッズのサンプルチェックや製造元への修正依頼が中心です。製造元のメーカー様とのすり合わせには自分で描いた絵などを用いるようにしており、協力して一緒に可愛い商品を作り上げています。
藤津:リモートも使いますか?
内納:オンラインミーティングは積極的に活用しています。在宅勤務も可能なときは行っています。
藤津:岡田さんは映画制作なので、繁忙期と閑散期の波がありますよね。
岡田:劇場版作品は4月公開なので、3月までに納品する必要があり、2月、3月は忙しいですが、今は準備期間なので、ルーティンはなく、夕方に出社することもあります。午前中は外で打ち合わせをすることが多いです。
藤津:どんな方と打ち合わせされるんですか?
岡田:音楽レーベルや、劇場版コナンのご当地コラボで現地に行くこともあります。作品づくりのために演出さんを連れて行って、現地の雰囲気を感じてもらいます。現地が山奥の方だと静けさに癒されつつも、忙しい時期は「現実に戻らないと」と思うこともあります(笑)。
川野:私は基本午後からの勤務です。午前打ち合わせの予定があると「えー」って思います(笑)。
藤津:演出の仕事は、絵コンテを描いて、作画スタッフにイメージを伝えるところから始まりますよね。
川野:作画が上がってきたら、イメージと違う部分を直していきます。原作の意図に合うように調整する、間違い探しみたいな仕事です。
■これまで関わった作品での思い出
藤津:印象に残っている作品や仕事のやりがいがあれば教えてください。
川野:『吸血鬼すぐ死ぬ』という作品ですね。コメディ作品は、テンポや間、キャラクターの表情で面白さが決まるので、演出の工夫が求められ、やりがいがあります。演出は、作画スタッフに意図をしっかり伝えることが大切なんですが、この作品では、「こうしてほしい」と伝えると、いつも期待以上の仕上がりで応えてくれて。信頼できる仲間と一緒に制作できたのは本当に気持ちよかったです。
濱野:僕は、キャスティングがぴったりはまる瞬間です。キャラと声がぴったりはまって、制作者の笑顔が見られることが一番嬉しいです。自社の声優を起用することも多いので、「良かったよ」と言ってもらえるのは嬉しいです。
内納:私は、完成した商品が店頭に並び、SNSで「かわいい!」と言ってもらえると、何より励みになります。特にこだわったポイントを褒めてもらえると、次への力になります。
藤津:こだわりポイント、具体的には?
内納:例えばポーチの金具をハート型にしたり、刺繍の糸の色や紙タグのデザインに力を入れたり。紙タグってシンプルにもできるんですが、そこを丁寧に作ることで売り上げにもつながると思っていて。お客さんが気づいてくれると、本当に嬉しいです。
藤津:紙タグも作品や世界の一部として、大事にしてもらいたいですね。
岡田:僕にとって一番印象深い日は、1年に1回の劇場公開日です。
藤津:TVシリーズだと毎週放送がありますが、映画は一年に一度の大勝負。プレッシャーも大きいですよね。
岡田:正直時間が足りませんが、毎年楽しみにしてくれているファンのためにぎりぎりまで粘ります。公開を迎えた瞬間、「この一年、やり切った」と大きな達成感が押し寄せます。
藤津:仕事で一番大切にしていることはなんですか?
岡田:僕の仕事は、公開日に間に合うように納品することです。常に100点の作品を作りたいけど、現実的にはどうそこに近づけるか。どこに力を注ぐか、その判断がプロデューサーの仕事です。
小川:私も色んな作品をやりましたが、作品ごとに“その道のプロ”と一緒に制作できたのが印象深いです。自分が携わった作品はちょっと変わったことを制作に取り入れるところがあって、例えば『ユーリ!!! on ICE』では、フィギュアスケーターを撮影して作画に活かし、『牙狼』ではスタントマンを起用してアクションの動きをリアルに再現したり。
藤津:作品ごとに、色々な工夫をしているんですね。
小川:フィギュアスケーター、スタントマン、料理人…毎回違う分野の方と関われるのがこの仕事の魅力です。
■中野の魅力
藤津:中野について皆さんの印象や気に入っている点を伺いたいと思います。
川野:私は中野坂上とか新中野、中野新橋周辺で働いていますが、ご飯屋さんが多くて助かってます。夜は外に食べに行くことが多いですね。
藤津:食環境は大事ですよね。
川野:本当に。ちょこちょこ新しいお店も開拓しに行きます。ドラマにもよく使用される、中野新橋の景色も好きですね。
濱野:中野は都会の便利さと、自然の穏やかさがちょうどいいバランスで共存していて、飽きないまちですね。仕事で頭がいっぱいになった時でも、歩きながら街並みや公園の木々を眺めるとリフレッシュされます。どこを歩いてるか時々分からないこともありますが、それも楽しいです。
小川:中野はサブカル、アート、音楽など、文化が豊かですよね。中野ブロードウェイには観光客も多くて、海外の方が自分が関わった作品のTシャツを着ているのを見ると嬉しくなります。
藤津:散歩も趣味と伺いました。
小川:はい。新宿まで歩いたり、西武線沿いを散歩したりしています。中野駅から少し離れた落ち着いたエリアが心地いいですね。
内納:私は入社するまで中野には縁がなかったんですが、働き始めてからは、多様な人が行き交う自由な雰囲気が心地よく感じています。新しいビルと古い路地が混在する“ごちゃごちゃ感”も好きです。
藤津:お気に入りの場所はありますか?
内納:ドラマ『相棒』の大ファンで、ロケ地にもなったドコモのビル周辺と、近くの歩道橋は聖地巡礼するほどお気に入りです。
岡田:関西から出てきて、最初に住んだのが中野でした。気取らない雰囲気が気に入っています。ご飯屋さんが多いのも魅力ですが、小さい店が減ってきているのはちょっと残念です。
藤津:思い出の場所はありますか?
岡田:野方ですね。初めて住んだエリアで、西武線が通る風景が下町っぽくて好きです。以前トムスがあった新井薬師のあたりも、人情味があって好きなエリアです。
■今後挑戦したいこと
藤津:では最後に、今後挑戦してみたいことや展望について伺いたいと思います。
濱野:キャスティングから音響制作、宣伝まで幅広く関わっていますが、何よりも関わる皆さんが「この作品に携われてよかった」と心から思えるような作品づくりを支えていきたいです。声にならない思いにも、丁寧に応えていけたらと思っています。
藤津:今あることを着実に積み重ねて、力をつけていくという感じですね。
濱野:あと、マネジメントしている演者さんにももっといい環境を整えていきたいです。
川野:私は少しずつ監督の仕事もさせてもらっていて、今まさに挑戦中って感じです。2026年にTVアニメ化が発表された『LIAR GAME』では、初めて監督を務めます。演出で培った現場経験を生かし、心に残る作品を作りたいです。
藤津:挑戦中ですね。参考にしている監督の方とかは?
川野:これまでご一緒した監督の皆さんは、人間的にも技術的にもすごい方ばかりなので、少しでも近づけたらと思っています。
小川:僕は、原作がある作品はもちろん、『ゾンビランドサガ』のようなオリジナル作品も作っていきたいです。あとは、便利な制作ツールも活用して、クリエイターさんとのコミュニケーションにもっと時間を使っていきたいですね。
藤津:オリジナル作品はアニメの大事な部分を担ってますよね。
小川:視聴者にどう受け入れられるかという緊張感もありますが、それがまた面白いです。今年の『全修。』のように、1年から2年に1本はオリジナル作品を制作していきたいです。
内納:私はいつか海外でプリキュアプリティストアを開きたいです。プリキュアって海外ではまだあまり知られておらず、グッズをきっかけに知ってもらえたら嬉しいです。アジア圏ではかわいいグッズやファンシーキャラが人気なので、そこにプリキュアが入っていけたらいいなと。
藤津:作品は色んな都合で入ってこられなくても、グッズは届けやすいですもんね。
内納:理想は作品と一緒に世界へ行くことですが、グッズやプリキュア プリティストアの存在がきっかけになって作品に興味を持ってもらえたら素敵ですよね。
岡田:僕はプロデューサーなので、小川さんと同じくオリジナル作品を企画してプロデュースしたいです。もちろん、コナンも頑張って作っていきます。
藤津:コナンは世間の期待もどんどん大きくなってますよね。
岡田:僕が入った頃は、ここまでじゃなかったんですけどね。来年でアニメ30周年で、これからもずっと続いていく作品だと思います。
藤津:中野区が舞台になる可能性も?
岡田:そしたらアニメーション会社のビルがたくさんありますね。皆さんに連絡しますので、爆破の許可をください(笑)。
一同:(笑)
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このページは区民部 文化振興・多文化共生推進課が担当しています。