放射線を浴びるとどうなるのですか
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更新日:2024年4月9日
放射線は人の細胞を傷つけるので、傷ついた細胞の種類や、どの組織・臓器の細胞かによって、さまざまな影響が現れます。
しかし、これらの影響は放射線以外の原因でも現れるので、鑑別が必要です。
細胞を傷つける原因は多種多様で、人には細胞の傷を修復する様々な能力があります。
また、人には修復に失敗した細胞を取り除く能力もあり、「1日に全身のおよそ0.7パーセント(3,000から4,000億個)の細胞が死ぬ(=新陳代謝する)」といわれています。
結果として、もし細胞が傷ついても、傷やその細胞自体がなくなってしまえば、影響は現れません。
「この線量以下の被ばくなら影響が生じない、この線量以上被ばくすると影響が生じる」という線量を「しきい線量」といいます。
放射線影響は、「しきい線量」のあるものと、ないと仮定されているものがあります。
参考
- みんなの歯学 因果関係の5つの判定基準(外部サイト)
- レファレンス共同データベース ヒトの細胞は全体で何個あるか。また、1日当たり何個死に何個生まれているか。(外部サイト)
- ATOMICA 放射線の人体への影響(外部サイト)
- 放射線影響研究所 放射線の健康影響(外部サイト)
- MSDマニュアル(外部サイト)→「家庭版」→「放射線障害」で検索
「しきい線量」のある影響が「確定的影響(有害な組織反応)」です。
吸収線量で100ミリグレイ以上の放射線に被ばくすると、白血球の減少・不妊・脱毛・白内障などが、発生します。
確定的影響は、組織としての機能がなくなることが原因です。
したがって、「組織を形成する細胞の消滅が、再生を上回る線量」を超えない限り、現れません。
確定的影響は、組織の吸収線量が増えるにしたがって、重症になります。
参考
- 環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和4年度版)(外部サイト)第3章
- ICRP Pub.118 組織反応に関するICRP声明(2017年)(外部サイト)
- 日本放射線腫瘍学会 放射線治療計画ガイドライン2020年版(外部サイト) 12 付表 正常組織の耐容線量
- がん情報サービス 放射線治療の実際 4.副作用と対策(外部サイト)
「しきい線量」がないと仮定されている影響が「確率的影響」です。
「大量の放射線に被ばくした事実」と「がん発生の事実」の間には、十分な知見があります。
しかし、「被ばくした子孫への遺伝性障害」と「自然放射線レベルの放射線を浴びたあとの発がん」は、よくわかっていません。
「わからない」というのは、「どんなことが起こるか見当もつかない」というのではなく、発生するとしても、
- 「少ない放射線被ばく」の関与は、「放射線以外のすべてを合わせた遺伝性障害の原因」の関与、および、「放射線以外のすべてを合わせた発がんの原因」の関与より小さい
- 少ない放射線被ばくによる遺伝性障害とがんの発生率は、自然発生率より少ない
ことは、現在の科学者の多数意見です。
確率的影響は、重症度より発生率が問題になります。
発生率は、放射線の種類や、被ばくした組織の放射性感受性によって、異なります。
したがって、確率的影響のリスクは、吸収線量ではなく、組織の等価線量や、実効線量(どちらもシーベルト単位)で評価します。
参考
調査研究
原爆被爆者調査研究
- 放射線影響研究所 これまでの成果と今後の研究(外部サイト)
チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故調査研究
- WHO チェルノブイリ事故の健康影響(2006年)(外部サイト)
- 笹川記念保健協力財団 チェルノブイリ原発事故被災児の検診成績(1999年)(外部サイト)
- 京都大学原子炉実験所原子力安全研究グループ チェルノブイリ原発事故による放射能汚染と被災者たち(1992年)(外部サイト)
放射線量の評価
- 原子力規制委員会 放射線防護のための線量及び健康リスク評価の精度向上に関する研究(令和4年度~令和8年度)(外部サイト)
- 文部科学省 外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針(1999年)(外部サイト)
放射線量の基準
放射線管理上の防護の目的は「望ましい人間の活動を不当に制限せずに、放射線被ばくによる有害な影響から、適正な水準で、人と環境を守ること」で、
- 人について
「有害な組織反応(確定的影響)の発生を防止」し、「確率的影響のリスクを合理的に減少」すること - 環境について
「生物多様性の維持」「種の保全」「自然の生息環境・群集・生態系の健全性の維持」への有害な影響を回避すること
の2つです(なお、事故発生時には「被災者の生活環境、防護措置対応者の作業環境の質の維持」も防護の目的になる)。
そして、これら2つの目的を達成するための基本原則は、
の3つです。
参考
- ICRP
Pub.146 大規模原子力事故における人と環境の放射線防護(外部サイト)
Pub.138 放射線防護体系の倫理基盤(外部サイト)
Pub.124 さまざまな被ばく状況における環境の防護(外部サイト)
Pub.103 2007年勧告(外部サイト) - 原子力規制委員会
原子力災害対策指針の緊急事態区分を判断する基準等の解説(外部サイト)
RI規制関連法令集(外部サイト)
正当化の意思決定には、放射線に関連しない他のリスクやその活動費用、利益も含まれます。
しかし、低線量の放射線による人への影響が「わからない」では、放射線の管理も、放射線を利用した場合のリスクと利益の比較もできません。
そこで、ICRPは、確率的影響の発生は実効線量に比例する仮定(ただし、白血病の発生は線量と曲線関係にある仮定)を採用して、放射線被ばくのリスクを算出しました。
被ばく集団 | がん | 遺伝性障害 | 合計 |
---|---|---|---|
全年齢 | 5.5パーセント | 0.2パーセント | 5.7パーセント |
成人 | 4.1パーセント | 0.1パーセント | 4.2パーセント |
正当化の決定過程で大切なのは、「人々にリスクを受け入れさせること」ではなく、「人々の防護と人生の選択について、十分な情報に基づいた意思決定ができるように支援すること(人々の尊厳を尊重すること)」です。
そして、正当化は、計画や管理の初めの「1回限りの」検討事項ではありません。
既に行われた決定が、害より多くの益をもたらし続けているか、定期的に再評価が必要です。
参考
- ICRP Pub.104 放射線防護の管理方策の適用範囲(外部サイト)
- 国立保健医療科学院 C2H(保健医療経済評価研究センター)(外部サイト)
- 福井県立大学 放射線被曝回避の簡単なリスク便益分析(2011年)(外部サイト)
防護の最適化は、「合理的に可能な限り、被ばくを低減する対策をとる(ALARA:as low as reasonably achievable)」ことで、最善の選択肢が、必ずしも最低の被ばく線量をもたらすとは限りません。
事故時の最適化の際に考慮すべきことは、
- 消費者対汚染地域生産者の利害
- 汚染地域住民と汚染地域外住民の連帯
- 汚染地域住民が自身で最適化を決定できるための情報伝達と防護方策
の3つです。
参考
- ICRP Pub.111 原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用(外部サイト)
- 内閣府 原子力防災関係資料(外部サイト)
- 原子力規制委員会 原子力災害対策(外部サイト)
- ATOMICA ALARA(外部サイト)
上記を踏まえて、日本の法令は、平常時の、自然放射線被ばく・医療被ばくを除いた、一般公衆の線量限度を「1年で1ミリシーベルト」と間接的に規定しています。
線量限度は、あくまで「放射線防護の最適化」を評価するための、管理の目安です。
「確率的影響にしきい値はない」と仮定している以上、線量限度は、「安全と危険の境界」や「個人の健康リスク」「現実にがんや遺伝性障害が発生する確率」を表すものではありません。
参考
- 放射性同位元素等の規制に関する法律(外部サイト)
- 放射性物質の数量等に関する基準(外部サイト)
- 放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(外部サイト)
- 資源エネルギー庁 放射性物質の規制基準(外部サイト)
- 東京都 放射線量の基準はありますか?(外部サイト)
- 国立保健医療科学院 線量限度の考え方を教えて欲しい(外部サイト)
医学上の多数意見も、「確率的影響にしきい値はない」という仮定を採用しています。
ただし、外部被ばくと内部被ばくとで、予防・治療方法が異なるため、医学上の基準は、
- 外部被ばくは、生まれてから今までの積算値(自然放射線と医療被ばくを除く)で、実効線量で100ミリシーベルト
- 内部被ばくは、預託実効線量で20ミリシーベルト(放射性セシウムでおよそ15万ベクレルの摂取)
とされています。
放射線の影響は「量(積算線量)」だけでなく「強さ(線量率=どれくらいの時間にどれくらいの量を被ばくするか)」にも関係します。
医学の多数意見は「自然放射線の数倍程度の強さ(線量率)なら、ほとんど人への影響は無視できる」としています。
長期間にわたって過剰に食塩を摂取することは、実効線量で200ミリシーベルトの被ばくと同じくらいのがんのリスクになると考えられています(放射線被ばくとがん)。
したがって、上記の基準値は、医師が「塩分の取りすぎに気をつけてください」というレベルです。
医学上の放射線防護の目的は、放射線管理上の防護の目的と、同じです。
しかし、医学上は、確定的影響が発生する線量でも「便益がある」と正当化される場合があります(エックス線検査など医療で浴びる被ばくは健康に影響がありますか?)。
したがって、上記医学上の基準は、放射線管理上の基準とは異なり、個人の線量限度ではありません。
参考
- 量子科学技術研究開発機構 被ばく医療診療手引き(2022年9月更新)(外部サイト)
- ATOMICA 線量率と生物学的効果(外部サイト)
- 日本分析センター 預託実効線量(外部サイト)
仕事で、放射線に被ばくして、病気になったときは、労災補償の対象になります。
なお、労災制度は労働者保護が第1目的であって、認定基準は「原因」ではなく、「条件」です(=「これだけ放射線被ばくしたら、この症状が必ず出る 」ではなく、「この症状が出たときに、これだけ放射線被ばくしていたら、保険を適用する」)。
行政の労災認定における「放射線起因性(=放射線が原因で病気が起きたこと)」の判断は、原爆症の認定などと同様、「科学的合理性」に基づいています。
しかし近年、行政による「科学的合理性」に基づく判断と、個別事案(現実に症状が出ている方)の救済を第1目的とする司法(裁判所)の「因果関係がわからない場合は、あることにする」とする判断との間に、隔たりがあるとされています。
働く場には、放射線以外にも発がん物質はあります。
がんで労災補償が認定された方のうち、放射線によるものはおよそ0.2パーセントです。
参考
- デジタルトランスフォーメーションを活用した医療従事者の被ばく低減プログラムの開発と有効性の検証(外部サイト)
- 厚生労働省 放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ(外部サイト)
業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)(外部サイト)6 職業がんの労災補償状況 - 旧労働省 電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について(1976年)(外部サイト)
- 最高裁判所広報課 原爆症認定申請却下処分取消請求事件(2018年、2019年)について(外部サイト)
関連情報
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このページは健康福祉部 保健予防課(中野区保健所)が担当しています。