個人情報保護審査会答申(第9号)

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更新日:2023年8月3日

答申第9号
1996年4月5日

中野区長 神山弘市 殿

中野区個人情報保護審査会
会長 井出嘉憲

中野区個人情報の保護に関する条例第33条第2項の規定に基づく諮問について(答申)

1993年12月3日付、5中総総第501号による下記の諮問についいて別紙のとおり答申します。

諮問事項

自己情報不開示等決定処分に係る異議申立てについて(諮問)

1 審査会の結論

異議申立人らの開示請求にかかる本件情報は、全部開示することが妥当である。

2 異議申立ての趣旨及び経緯

 異議申立人(以下「申立人」という。)は、1993年9月13日、中野区個人情報の保護に関する条例(以下「条例」という。)22条に基づき、実施機関である中野区長(以下「区長」という。)に対して、その自己情報である「出生届に関する中野区長による東京法務局宛の伺い文書及び東京法務局からの区長宛返信文書ならびに、この文書に関わる一連の文書(添付書類)」の開示を請求したが、同年9月28日付で、「出生届受理伺いの回答文書」については、部分開示の通知を受けた。

 申立人はこの部部開示決定を不服とし全部の開示を求めて、1993年11月22日、区長に対し異議申立てをした。そして、同年12月3日付で区長から当審査会に対し、条例に基づく本件諮問がなされている。

 当審査会の審理において、実施機関・区長から1994年1月21日付で「理由説明書」及び1995年10月16日付で「理由補充書」が出され、これに対して申立人側は、1995年6月26日付で「意見書」、1995年7月24日付で「意見書その2」、1995年11月15日付で「意見書その3」を提出するとともに、同年6月26日、当審査会に対する口頭意見陳述を行った。

3 実施機関の主張

(1) 条例上の不開示理由である「評価、診断、選考、相談、指導等に関するもので、本人に開示しないことが正当と認められるもの」(条例26条3号)に該当し、文書の内容から開示できない。

1) 指導に関する文書にあたる。
2) 本人に開示しないことが正当と認められる。

イ 本人に対する評価の記載は、本人に対する指導に影響する。今後の指導の内容記載は、本人に手のうちが分かってしまい、継続的な指導がしにくくなる(口頭意見陳述)。

ロ 本件指示書に関する国の見解と国の秘密指定がある。本件指示書には、東京法務局長が「秘・無期限」と表示している。又東京法務局緒自身が、明確に何度も重ねて開示してはならないと指示している。

 権限ある官公庁が秘密であることを明示している情報は、一応「形式的秘密」に該当し、裁判等による最終的判断があるまでは秘密の推定を受ける。

 また、開示してはならないとの指示は、機関委任事務に係る上級庁の下級庁に対する職務上の命令であり、その内容が明らかに法令に違背しない限り従わざるを得ず、それに従わず情報を開示することは、法律上公務員に課せられた守秘義務に違反することになる(理由説明補充書)。

(2) 条例上の不開示理由である「取締り、調査、交渉、争議等に関するもので、開示することにより実施機関の公正又は適正な業務執行が著しく妨げられるもの」(条例26条4号)に該当する。

1) 国の明確な指示がある以上これに従わなければ、国との信頼関係を著しく損ねることは明らかであり、今後の職務執行(行政協力関係)に重大な影響がある(口頭意見陳述、理由説明補充書)。

2) 戸籍事務は、全国的に統一した執行及び公正的確な行政処分が求められている。従って、監督庁の指導に関する内部文書を公開することは、今後国と協調して執行すべき戸籍事務に著しい支障を生じ、なおかつその影響が全国的にも及ぶ可能性がある(不開示等決定通知書、理由説明補充書)。

4 申立人の主張

(1)条例26条3号に該当しない

1) 本件文書が、中野区の主張のように行政指導上の「内部文書」にあたるなら、個人情報とは無関係な行政文書であり、本来条例26条3号に該当しないはずである。中野区の主張には矛盾がある(意見書その2)。

2) 本件文書には、「最終的な処分」となる東京法務局長の指示があるというなら、このような重要な指示が関係者(住民)に明らかにされないまま実施(指導)されることは、まったくアンフェアである(意見書その2)。
 又、「本人に知らせることにより適正な指導が困難になる」(条例26条3号)にもあたらない(意見書その2)。

3)「裁判等による最終的判断があるまでは『秘密』の推定を受ける」と主張するのであれば、区は自ら依拠する条例を否定することになりかねない(意見書その3)。

(2)条例26条4号に該当しない

1) 機関委任事務に関する文書であっても、主権者として公開を求める権利がある。「戸籍事務」であろうと行政側の意向が開示されなければ、主権者として行政行為に対する判断ができず、批判の検討もできなくなる(意見書)。
 中野区は、自治体として自律的に判断すべき事柄である(意見書その2・意見書その3)

2) 「国との信頼関係」以前に主権者たる「区民との信頼関係」を損なわないようにすべきである(意見書その2)。
 本件文書は申立人等の働きかけによって取得した文書であるから、行政側の信義として当然公開すべきである(意見書)。

3)「全国的に統一した執行及び的確な行政処分」ということが、そのまま文書の中身を秘密にする理由にはならない。
 区は、本人に開示しないことが正当と認められる具体的かつ客観的な理由を、何ら明示していない。
 本件文書を開示しても、戸籍事務に何ら支障がないはずであり、条例26条4号にあたらない(意見書その2・意見書その3)。

(3)区長は、本件文書の公開に向けて、条例36条による国への働きかけをするべきである(意見書その2)。

 区は、外国人登録原票を「不開示」とする法務省の指導を「特段の理由がない」として見直すよう要請することにしたというが、戸籍と外国人登録との違いはあれ、本件とまったく同質の問題であり、同様の対応をすべきである(意見書その3)。

5 審査会の判断

(1)本件情報について

 異議申立人らは、その子の出生届の提出に際し、次のような記載の出席届の受理を区に求めた。

1) 父母との続柄欄は、(嫡出子・非嫡出子の別)は、子を差別するものであるから、記載しない。
2) 父母の氏名欄は、事実上の父である○○○○の氏名を記載する。
3) 届出人の資格については、同人を父として届け出る。

 これに対し、区は次のとおり応答して、申立人ら記載の出生届を受理しなかった。

1) 戸籍法49条により、出生届の際には続柄記載が義務付けられており、嫡出子・非嫡出子の別は民法772条によるものである。
2) 法律婚によらない子については、民法の規定による認知がない場合は、父の氏名欄は空欄で届け出なければならない。
3) 戸籍法52条2項により、非嫡出子の出生届は母がすることとされており、事実上の父が父の資格で届け出ることは認められない。
4) 住所欄の世帯主との続柄欄については、戸籍法施行規則55条により記載事項とされており、さらに、法務省及び自治省からの通達により、非嫡出子については「子」と記載することが定められている。

 その後、区と申立人らが話し合い、申立人らの主張を添えて、区から国(東京法務局)に申立人らの記載した出生届けの受理伺いを送付した。この受理伺いに対する国の指示書が、、本件開示請求対象の情報である。

(2)本件情報は条例の対象情報であるか

 本件情報が条例及び中野区区政情報の公開に関する条例(以下「情報公開条例」という。)の対象情報であることについて、当事者間に争いはない。

 しかし東京法務局は、本件情報は機関委任事務上取得した国の事務に関する内部連絡文書であり、機関委任事務については地方自治体に条例制定権はないから、本件指示書は条例の対象外即ち開示の対象外である(実施機関の理由説明書による)と主張しているので、次にこの点について検討する。

 条例2条2号には「個人情報」として「個人生活に関する情報で、特定の個人が識別できるもの」と規定し、同条例22条で「区民は実施機関が保管している自己に関する個人情報について、実施機関に対しその開示を請求することができる」としている。情報公開条例2条2号では「区政情報」として「実施機関の職員が職務上作成し、又は入手した情報」と定め、国等からの機関委任事務であっても、情報公開条例の対象としている。条例は、情報公開条例を当然準用していると解せられるので、本件文書は条例対象情報である。

 戸籍事務は、法律に基づき区長に委任された国の機関委任事務(地方自治法148条3項別表4の2の4)であるので、区長は戸籍事務の実施につき、東京法務局の指揮監督を受ける(戸籍法3条)。本件において、出生届の受領にあたって職員が事実上行う窓口指導は戸籍事務そのものではないが、出生届受領に関する照会文書のやりとりは、戸籍事務実施に関する上級庁の指揮監督であって、機関委任事務にあたる。

 しかし、国の機関委任事務であっても、その執行に関する個人情報記録の公文書作成、管理は自治事務にあたると解される。従って、本件情報が条例対象情報である以上、本人に開示する否かは自治事務であって、機関委任事務ではない。これについての国の指示に法的拘束力はなく、国の指揮命令は「地方自治の本旨」にもとることになろう。

 1995年7月3日施行された地方分権推進法は、国民福祉の増進に向かって、国及び地方自治体が分担すべき役割を明確にし、地方自治体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図ることを基本としている(同法2条)。そして、国は、国と地方自治体の役割分担の在り方に対し、地方自治体への権限の委譲の推進と共に、地方自治体に対する国の関与等を、地方自治の確立を図る観点から整理・合理化していくものとされている(同法5条)。本件文書の開示に関する国の指導は、今日の地方分権推進の考えに逆行していると考えられる。

(3)本件情報は条例26条3号に該当するか

 そもそも本件文書は、申立人ら記載の出生届の受理に関し、区と申立人らがやりとししている過程で区が提出した受理伺いの回答文書であり、その存在自体申立人らに知られているものである。そして、区は、出生届受理の窓口指導の一環として、本件文書の内容を抜き書きした「出生届の補正について」と題する文書を持って申立人らに通知を出しており、申立人らは、本件文書の内容もおおむね既に了知している。

 確かに、本件文書の中には申立人らに対する評価の記載もあるが、その部分を不開示にしなければならないような具体的必要性の生じる内容ではない。又、戸籍事務は全国的統一的事務であって、指導のあり方が個々人によって異なる訳ではなく、本件文書の内容たる一般的統一的な指導のあり方を開示したからといって、今後申立人に対する指導がしにくくなるとは認められない。

 従って、条例26条3号には該当しない。

(4)本件情報は26条4号に該当するか

 戸籍事務は、外国人登録事務と共に、公文書の作成、取得、管理が事務執行そのものであるという特殊性があり、他の事務と異なり、委任者である国の意思を特に重んずべき理由がある。

 しかし、外国人登録事務と比較すると、戸籍事務の場合は通達類は原則的に公開されている。個別案件についての自治体からの問い合わせとそれに対する回答等も公開され、事務処理の指針とされている。従って、全国的な統一的処理が必要だからといって、特定自治体による公開にまったくなじまないわけではない。又は、逆に本件は個別案件の処理についての照会文書であるから、本人に開示しても全国的統一的事務処理に影響を与えるものではないともいえる。

 国との信頼関係が多少損なわれることになっても、戸籍事務の一般性(全国的な統一的処理の必要性)から、今後国の指導にほかの自治体との差異が生じるとは考えられず、区への具体的指導に影響が出るものではない。

 ところで、区がわざわざ国の指揮監督をあおいて入手した回答文書につき、受信者である区が発信者である国の反対意思を押し切って開示してよいか否かは、区と国の協力関係の必要上から見ても慎重に検討すべき問題である。

 しかし、東京法務局長が文書に「秘・無期限」とする基準は明らかでなく、指示に具体的、合理的理由は付されていない。そこで審査会は、本件文書の内容からいって具体的に不開示とすることが妥当か否かを検討したが、内容からいって「秘」とする必要のある文書とは認められなかった。

 本件情報は行政内部の指示文書であるとともに、申立人らの個別ケースに関する個別の指示内容を含む個人情報文書である。よって、申立人らには、一般の情報公開請求の場合よりも強く、自己情報の開示請求権が保障されなくてはならない。

 以上、これまで検討してきた具体的な実質からみて、本件に対する国の不開示指示と申立人らの自己情報開示請求権を比較衡量した場合、国との信頼関係・協力関係に多少の影響が生じる恐れがあるとしても、本人の自己情報に対する知る権利を優先させ、開示すべきものと考える。

(5)区の国への要請(条例36条)について

 国の機関委任事務であっても、それが実質的に自治体行政の一環であり、住民の日常生活に密接に関連している以上、区は「自らの判断と責任において誠実に」(地方自治法138条の2)情報を開示しうるか否かを、条例に基づいて検討すべきである。地方分権推進法や行政手続法が制定され、地方自治体の自主性、自立性と行政手続の透明性が一層求められている。しかし、情報公開の分野では、国の情報公開法の制定が遅れ、国に先立って地方自治体において推進されている現状である。このような状況では、国による不開示指示に対しては無批判に受け入れるべきではなく、むしろ区としては、積極的に条例36条に基づく国への要請をなすべきであろう。

 区においては、外国人登録原票の開示について、先に国への要請を表明したところであり、本件においても、積極的に国へ働きかけることを期待したい。

5 本件不服審査の処理経過

  1. 1993年11月22日、申立人は、自己情報不開示等決定処分に不服があるとして、条例33条1項の規定に基づき、実施機関に異議申立書を提出した。
  2. 同年12月3日、実施機関は、本件異議申立てにつき、条例33条2項に基づき、当審査会に諮問を行った。
  3. 同年12月20日、審査会は、実施機関に対して不開示等理由説明書の提出を求めた。
  4. 1994年1月21日、実施機関から審査会に対して不開示等理由説明書が提出された。
  5. 同年1月28日、審査会は実施機関から提出された不開示等理由説明書の写しを申立人に送付し、意見書の提出を求めた。
  6. 1995年5月12日、審査会は、実施機関からの意見を聴取した。
  7. 同年6月26日、審査会は、申立人からの意見書を受理するとともに意見を聴取した。
  8. 同年7月3日、審査会は、申立人から提出された意見書の写しを実施機関に送付した。
  9. 同年7月24日、申立人から意見書その2が提出された。
  10. 同年7月25日、審査会は、申立人から提出された意見書その2の写しを実施機関に送付した。
  11. 同年7月26日、審査会は、実施機関からの意見を聴取した。
  12. 同年10月3日、審査会は、実施機関に対して不開示等理由説明補充書の説明を求めた。
  13. 同年10月16日、実施機関から審査会に対して不開示等理由説明補充書が提出された。
  14. 同年10月31日、審査会は、実施機関から提出された不開示等理由説明書の写しを申立人に送付し、意見書の提出を求めた。
  15. 同年11月15日、申立人から意見書その3が提出された。
  16. 同年12月26日、審査会は、申立人から提出された意見書その3の写しを実施機関に送付した。
  17. 審査会は、本件異議申立てにつき、1995年4月3日、5月12日、6月26日、7月26日、8月18日、9月29日、10月20日、11月18日、12月26日、1996年1月22日、2月21日、4月2日と審議を重ね、上記結論を得た。

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