個人情報保護審査会答申(第19号)

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更新日:2023年8月3日

答申第19号
2010年11月24日

中野区長 様

中野区個人情報保護審査会
会長 堀部政男

中野区個人情報の保護に関する条例33条2項の規定に基づく諮問について(答申)

2009年12月7日付け21中経経第2171号による下記の諮問について、別紙のとおり答申します。

諮問事項

中野区個人情報の保護に関する条例に係る異議申立てについて(諮問)

1 審査会の結論

  1. 異議申立人(以下「申立人」という。)がいわゆる「5.15事件」の経緯が正しく記録されていないと主張する点それ自体は、公文書記録の内容の当否(誤りないし不十分)であるので、本件異議申立ての審査ではそれとして取りあげられず、棄却されてもやむをえない。
  2. 福祉オンブズマンの審査結果通知書が申立人あてと異なって担当課長あてに出されている事実は存しないと認められ、この点の異議申立てには理由がない。
  3. 保護申請書等において申立人自身が記載した部分は、本人に開示するのが当然で、その点本件異議申立てには理由がある。
  4. 世帯台帳に記された第三者個人の利益を保障するために、第三者の個人情報を不開示とすることは相当であると解され、申立人もこの点は敢えて争ってはいないと認められる。
  5. 経過記録等における嘱託医の所見記録は、同医師と実施機関との信頼関係を維持することが肝要であり、本人不開示とすることでやむをえないものと解される。
  6. 経過記録等において、実施機関が申立人本人の言動等に関して記した部分は、行政の適正な執行を確保するという理由で本人不開示とすることは妥当でなく、特別の事情のあるものを除き原則として本人に開示すべきものと解される。
  7. 経過記録上で作成されたと記されている別添の「謝罪文」については、実施機関が開示請求に対する決定措置をすべきものである。

2 不服申立ておよび審査の経緯

(1) 申立人は、2009年8月26日付けで、中野区個人情報の保護に関する条例(以下「条例」という。)22条に基づき、「生活援護分野で保有している請求者の全ての情報(医療機関作成資料・保護決定調書および開始時以外の提出書類を除く)」について、実施機関である中野区長(以下適宜、「実施機関」または「区長」という。)に対して自己情報開示請求を行った。

 これに対し実施機関は、同年9月10日付けで、請求情報を「世帯台帳、保護開始時関係書類、福祉オンブズマン意見書関連資料、保護費返還金等の決定・納付に関する資料」であるとし、それぞれ後記する理由により、部分開示・不開示の決定を申立人に通知した。

 申立人は同決定につき、同年11月16日付けで区長に異議申立てをし、区長が同年12月7日付けで当審査会に不服審査の諮問をしたものが、本件である。

(2) 当審査会の審査手続において、実施機関から2010年1月4日付けで理由説明書が提出され、これに対し申立人は同年2月10日付けの意見書および同年5月14日付けの補充意見書を提出した。

 加えて当審査会は、2010年4月5日および7月23日に申立人の口頭意見陳述を受けるとともに、同年3月5日および6月11日に実施機関から事情聴取を行っている。

3 審査会の判断

 当審査会は、本件における争点の項目に応じて審査を行ったので、以下にその次第を分説していく。

3-1 世帯台帳・経過記録における面談対応事件の不記録が妥当か否か

(1) 申立人は、2007年5月15日を中心とする生活保護担当職員の面談対応にかかるトラブルを「5.15事件」とよび、その重大事案の正しい経過が「経過記録」に記録されていないと主張し、それを本件異議申立ての主要事項に挙げている(意見書、補充意見書、2度の口頭意見陳述)。

 そこで「経過記録」公文書における同日の記載を確かめると、同事件について、つぎのとおり記載されているのがすべてであり、本人に全部開示されている。

 「今回の特/控に関して、1~6月分の収入の10分の1の金額……が主へ『支給される』ものだと説明を受けていたと主張、立腹する。改めて特/控の定義について説明。最終的に理解したもよう。」 ※ホームページ用注記 「特/控」は「特別控除」の意味

(2) この面接対応事件は、生活保護費からさし引かれる給与収入につき10%の「特別控除」が認められると、その分生活保護費が所定の時期・手続によってその後に加給されることになるという「特別控除」のしくみに関して、生活保護担当職員の説明が申立人を誤解させ、上記5月15日に申立人が直ちに金銭支給を受ける手続をするつもりで出向いたところ、対応した別の職員が“混乱して、きわめて不都合な言動”に及んだと申立人が主張しているものである。

 この特別控除をめぐるトラブルの要因については、申立人が別途した苦情申立てに対する中野区福祉オンブズマンの審査結果通知書(2007年11月9日付け)に詳細に認定されている。

(3) 本件異議申立てにおいて申立人が主張する「5.15事件」の不記録ということが、「経過記録」公文書に全く記載されていないのであれば、請求文書の一部「不存在」として、当審査会によるその当否が審査の対象になりうる。

 ところが前記のとおり、申立人のいう「5.15事件」については、実施機関は、申立人と異なる認識(見方)に立って記録をしているようである。

 それに対して申立人は、該当公文書の記録内容が“誤りないし不当および著しく不十分”であると主張していることになる。

 そこで当審査会は、上記開示記録の内容についてその当否の審査を求められていることになるが、それは、条例23条に基づいて、「実施機関が保管している自己情報に誤りがあるとき又は正確でないとき」になされる「訂正」請求をめぐる異議申立ての審査においてなされるべき事柄にほかならない。

 本件異議申立ての審査にあっては、開示された「区政情報」公文書の記録内容の当否は調査・判断できないので、当審査会はこの争点については、異議申立てが棄却されてもやむをえない、と判断する。

3-2 福祉オンブズマンの審査結果通知書の担当課長あてのものはいかに存在していたか

 申立人は、福祉オンブズマンからの審査結果報告書が自分あてのもののほかに担当課長あてに異なって通知されていたはずなのに、それを開示しないことは失当であると主張している(意見書、口頭意見陳述)。

 当審査会の調査によれば、中野区福祉オンブズマンから申立人にあてた「審査結果のお知らせ」(2007年11月9日付け。別添の「特別控除制度についての説明」をふくむ)は、地域ケア担当参事から生活援護担当課長あてに送付されている。その際に、同上の申立人あて「お知らせ」文書に、「福祉サービス苦情調整委員からの調査通知について」という扉書きの1枚が付されていた。

 かくして、福祉オンブズマンの審査結果報告書が、申立人あてと担当課長あてとでちがって作成されているという事実はない。そうしたことは、第三者機関の審査報告として常識的にも考えられないところである。

3-3 保護申請書等の本人記載部分を本人不開示にした問題について

 保護申請書等において、親族に関する事項等を申立人本人が記載した部分をも、本件の決定で一部不開示としているのは、全く根拠を欠くもので、当然開示に決定変更されるべきであり、この点本件異議申立てには理由があると言える。

3-4 世帯台帳その他につき本人開示が第三者個人の利益を害するという問題について

 条例26条2号は、本人に開示しないことができる個人情報として、「開示することにより、第三者である特定の個人が識別され、当該第三者に不利益を及ぼすおそれがあるもの」を定めている。
 実施機関の主張によると、そうした第三者個人情報としては第1に、「扶養(援助)届」をはじめ、第三者個人の続柄・住所・生年月日・電話番号・口座番号・印影・勤務先情報等が該当する(理由説明書)。
 申立人も、この趣旨を踏まえて、プライバシーにかかわる第三者個人情報の記録については、異議申立てにおいて開示を求めることをしていないと認められる(意見書、口頭意見陳述)。

3-5 世帯台帳・経過記録の記載につき本人開示が行政の公正・適正な執行を著しく妨げるか否かについて

(1) 条例26条4号は、本人不開示にできる個人情報として、「開示することにより実施機関の公正又は適正な職務執行が著しく妨げられるもの」を定めている。

 本件の世帯台帳・経過記録には、申立人の生活保護に任ずる実施機関側の、申立人の言動や保健状況等に関する個人評価をふくむ記述が少なからずなされ、それらが多く部分不開示とされている。

 実施機関はそれらの不開示を上記の条例条項によって根拠付け、下記の具体的主張をしている。

(2) 上記に関し第1に、申立人の保健状況につき協議した嘱託医の所見情報を開示できるかについて、検討する。

 この嘱託医所見の記録について、申立人は開示を求めてはいるが、その理由を特に述べようとはしていない(ちなみに、請求時に医療機関作成資料の除外を表明している)。

 この点実施機関側は、福祉事務所と関係機関との「信頼関係の維持」を強調している(理由説明書)。

 そこで検討するのに、嘱託医の発言記録は、申立人が直接治療を受けたのでない“間接診断”の所見情報であって、そのまま本人に開示されることを予定していないと想定される。その所見内容について確かめようと本人が、氏名が開示された医師に通院外にアプローチする可能性がありうることにかんがみると、各医師の意向にかかわらずその発言記録を本人開示することは、行政との信頼関係を害し、条例にいう行政執行を著しく妨げるおそれを否定できないと解される(この点は、実は当審査会の1994年7月29日の先例答申と同旨である)。

(3) 上記(1)に関し第2に、申立人の言動等に対する実施機関側の所見・見方を記した記録の不開示部分を、開示すべきかどうかが問われる。

 申立人が開示を求めている「経過記録」等の不開示部分には、実施機関が本人の言動を描写するとともに、ケースワーカーとしての感想を具体的に記したものが少なくない。

 これについて実施機関が不開示の理由と主張するのは、福祉事務所と被保護者との「信頼関係の維持」である(理由説明書)。それに対して申立人は、不開示記録内容の公正を強く疑い、その是正のためにも全部開示すべきであると強く主張している(補充意見書、口頭意見陳述)。

 こうした、いわば“隠して成り立つ信頼関係”と行政評価の適正確保という問題については、当審査会の答申に重要な先例がある。

 区立小・中学校の「指導要録」の担任「所見」欄には、毎年度の生活指導的評価が記載されており、当審査会の答申(2000年2月15日)は、教育指導目的を達成するためにもその本人開示が妥当であるとし、実施機関・中野区教育委員会はそれを実行している。
本件についてこの点を判断すると、福祉事務所の生活指導は被保護者の「自立生活支援」を目的としており、そこにおける「信頼関係」は、“隠して成り立つ”ものよりも、お互いの見解の交換と共有にこそ根ざすべきところと考えられる(この点も、当審査会の前記1994年7月29日答申ですでに指摘したところと同旨である)。

 もっとも、条例26条3号にいう、「評価……指導等に関するもので、本人に開示しないことが正当と認められる」ような特別な情報(医療診断情報にときに認められ、本件では前述した嘱託医所見に関連した記述の場合がありえよう)であれば、別論であるが、それに当たらない限りは、本件の「経過記録」等における本人の言動に関する記述は本人に原則的に開示すべきもの、と当審査会は判断する。

(4) 前記のいわゆる「5.15事件」をめぐるその後の生活保護関係職員と申立人とのコンタクトの「経過記録」(2007年12月26日分)において、「別添の謝罪文」の作成が記されており、申立人はその開示を求めている(補充意見書)。実施機関は、開示請求に対する決定措置をすべきものである。

3-6 生活保護ケース記録の様式的あり方について

 当審査会がいわゆるインカメラ審理によって、本件の対象となった「経過記録」等の生活保護ケース記録を精査したところでは、下記のようなその様式的あり方に大きな問題があると認められたので、この際それを付記し、今後実施機関に抜本的な検討を要請したい。

  1. 被保護者本人に開示しないこととする嘱託医の所見の記録は、「経過記録」等とは別立ての文書とすべきである。
  2. 被保護者本人の言動に関するケースワーカー等担当職員による記録は、条例上の本人開示原則を踏まえて、必要最小限に適切な表現で行い、異動時の引継ぎの便宜を意識して感想的評価を安易に記したりしない方針を確立させるべきである。

なお、こうしたことは当審査会の前記先例答申(1994年7月29日)で一部すでに触れていたことも付記しておきたい。

中野区個人情報保護審査会
委員 稲垣隆一
委員 大塚孝子
委員 兼子 仁
委員 堀部政男(会長)
委員 桝潟俊子

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