酒井直人(中野区長)×納村哲二(フェリカポケットマーケティング株式会社代表取締役社長)
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更新日:2024年9月19日
対談テーマ
『中野区デジタル地域通貨「ナカペイ」に期待すること、未来への展望』
対談詳細
- 対談日時
2024年9月5日(木曜)10時30分から11時30分まで - 対談場所
中野区役所 区長応接室 - 対談者
フェリカポケットマーケティング株式会社 代表取締役社長 納村哲二氏
中野区長 酒井直人
対談内容
去る9月5日(木曜)、11月1日の利用開始を控えた、中野区デジタル地域通貨「ナカペイ」について、専用アプリケーションの開発や運用を担っていただいている納村社長と酒井中野区長の対談が実現。「ナカペイ」への期待と未来への展望について、熱く語り合いました。
(注)ナカペイ(デジタル地域通貨)は、区内の加盟店で1ポイント1円として利用できる、キャッシュレス決済サービス
酒井直人(以下、酒井):本日はお忙しい中、中野区役所までお越しいただき、ありがとうございます。
納村哲二(以下、納村):こちらこそ、こういった機会をいただき、また、「ナカペイ」のスマートフォンアプリの開発と運用を担わせていただき、感謝申し上げます。事務局運営の株式会社JTB様と協業しながら、「ナカペイ」の継続的発展に貢献させていただければと思っております。
酒井:大変心強く思っております。まずは、納村様の地域通貨に関する思いや考えをご教示いただけますか。
納村:ソニーの社内ベンチャーで当社を2008年に設立して以来、16年間地域通貨・地域ポイントに取り組んできました。やればやるほどその難しさを思い知らされる一方で、その大きな可能性にのめり込んできたというのが正直な感想です。地域通貨はあくまで道具であり目的ではありません。一方、自治体等の各施策の目的を達成するためには、大変有効な道具だと思っています。
酒井:はい、そのように理解しています。
納村:地域通貨の最大の特徴は「不便」であることです。利用できる地域や店舗を限定、対象者、利用の用途や期間も限定されます。限定を施すということは、言い換えれば「メッセージを込めている」ことになります。「〇〇Payの方がお得で便利」という考え方は当然ですし、そもそも役割が異なりますので、競合するのではなく、共存が可能であり、補完的でさえあります。中野区で来年度から実施を予定しているコミュニティポイントは、地域通貨を得るための善行(いいこと)にポイント付与するものだと思いますが、いわゆる中野区で善いことをしたら「ナカペイ」が付いてくるのであれば、地域への愛着や誇りあるシビックプライド、中野愛を醸成するために、非常に有効な道具になると思います。
酒井:納村様の思いやお考えには、全くもって共感いたします。今、おっしゃった中野愛の強い人は、中野には結構多いことを実感しています。その人たちは多分すぐ「ナカペイ」を利用してくれると思うのですが、それ以外の区民や在勤者、来街者の皆さんにどうやって広げ、利用者を増やしていくかというところがポイントだと思っています。
納村:はい、地域通貨の難しさの本質は、技術やお金の問題ではなく、中野大好きという方がどれだけ増えるかという一人ひとりの心の問題であり、幸福の価値観に関わることだからです。だからこそ、地域通貨にチャレンジする価値があるのだと思います。
酒井:まずは、中野という経済圏を確立したいと思っているのですが、経済圏といっても「円」だけじゃなくて、健康ポイントもそうですし、ボランティアの関係もあるし、色々なことやものが循環する形になっていく圏域にしたいと考えています。中野区が区民の皆さんの幸せにつながる取組を実施し、その取組に共感・参加する誘因に地域通貨がなると確信しており、さらに、他人や地域のために何か行動するきっかけの一つにしたい。これらが、私が「ナカペイ」を実施したいと強く思った理由の一つです。
納村:「情けは人の為ならず」に近いのですが「世のため人のため、中野のために」をちょっとだけ意識して日常生活を送ることが、ひいては自分のためにもなるのだということ。そうなってくると、幸福の価値観も少し変わってくるのかなと思うのです。中野に住むと楽しいことがあるし、幸せを感じるみたいな。
酒井:はい、そうなってほしいですね。他方、企業Payで収集できなかったデータが収集・分析できること、これらが施策の見直しなどに活かせることも大きなメリットだと思っています。
納村:気づきの意識変容から行動変容へのきっかけとなることが、地域通貨事業の一番の腕の見せどころですが、当然、「ナカペイ」により捕捉されるデータを利活用したEBPM(データなど根拠に基づく政策立案)にもつなげられると考えています。この点も地域通貨事業にチャレンジする大きな価値だと思っています。
酒井:今後の展望としては、区の施設使用料や給付事業にできるだけ早く展開していきたいと考えています。給付事業については、事務の煩雑さとコストが大きな負担となっています。「ナカペイ」を活用することで、その負担を軽減し、これまでかかっていたコストを子どもたちのための施策やコミュニティポイントのさらなる活用に充てていくことでより「ナカペイ」を循環させていく。さらに、「ナカペイ」を区民アプリへと発展させ、一人ひとりの生活やライフステージに合わせて支援できるプラットフォームにしていくビジョンを描いています。
納村:大変共感しますし、一緒に創り上げていけたらと思います。
酒井:利用者を増やすことができれば、メディア並みのデータの利活用が可能となり、産学との連携のほか、PC一つで起業するような学生や企業に頼らない人材も生まれてくるのではないか。そういう人材が出てきてほしいと夢見ています。
納村:十分可能性があると思います。
酒井:中野区基本構想で示した「つながる、はじまる、なかの」。ナカペイは、みんなで創り上げていくことをコンセプトにしており、こういった議論を重ねて、どんどん良いものにしていきたいですね。こういったことができないのか、いや技術的には可能であるが本当に必要かなど、忌憚のない意見交換をお願いします。御社と中野区双方でチャレンジし続けていきたいですね。
納村:以前に、ソニーの盛田会長からお話いただいたことですが、今はもてはやされている企業でも、ちょっと気が緩むと必ず厳しい局面を迎える。企業も国も自治体も同じで、衰退していく理由は一つであり、それは「見えない失敗」だと。事業継続のために一番大事なことは実は緊急性がなく、直近の実行計画に含まれていないことも多いです。そのため、実行(チャレンジ)しなくても計画されてないので責められることもなく、失敗と見なされないことになる。こういった計画されていなくても本来やるべきことをやらない「見えない失敗」が積み重なって組織は衰退していく。
酒井:私も日頃から「不作為の罪」を犯さない組織風土を醸成することが重要だと思い、区長就任以来、そのことに取り組んでいます。道半ばではありますが、ともにチャレンジしてまいりましょう。
【プロフィール】
納村 哲二(おさむら てつじ)
1960年生まれ。福井県出身。フェリカポケットマーケティング代表取締役社長。1984年ソニー入社。カセットテープやフロッピーディスクなどの営業を担当。8年間の欧州駐在などを経て、2001年よりICカード「フェリカ」の国内・海外営業の責任者に。2008年1月、ソニーの社内ベンチャーとしてフェリカポケットマーケティングを設立、社長に就任。「ITを活かして社会課題を解決し、地域活性化に貢献する」をミッションに、これまで全国120以上の自治体に向け、地域通貨を軸にしたデジタルソリューションを開発・運用している。徹底的に現場主義を貫き、全国各地を飛び回りながら「地域を元気にする」仕組みづくりに奔走中。9月2日に地域通貨についての2冊目の書籍『「円」より「縁」-地域通貨が示す新たな選択-』を刊行。
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